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太陽と月の欠片 独占欲4

 「オープンっ」
 「レフト」
 「センター」
 「バック!」
 あちこちから声が聞こえる。
 一番大きい声なんて言っておきながら杉浦は相手の動きを読んで攻撃を仕掛ける。
 はっきりと見えないと言っても動きや気配を読み取る力が秀でてるのだろう。
 吉村は丁寧に杉浦にレシーブを上げる。
 そうすればあとは杉浦の自由だ。
 前衛にあがってきた大海に杉浦が近づいた。
 「センターの時もっと早く飛べる?」
 大海は杉浦に顔を近づけた。
 「どん位?」
 「俺構えてボールの下に入ったら。綺麗なツーが上がったとき、な?」
 「まじで?」
 杉浦が頷く。
 「そんで振りぬいて?」
 「……了解」
 オープンの位置に戻る。
 やはりどれもばっちりのタイミングでボールが飛んでくる。
 センターの時に杉浦が言ったそれをやってみた。
 あまりにも早いジャンプ。
 まだボールは大海の横にあるのに突然振り下ろした手にボールが当たってた。
 「…………」
 着地してしゃがんだまま大海は自分で固まった。
 何があった?
 「どう?」
 しゃがんでる大海に杉浦が話しかけてきた。
 「………訳わかんね」
 「超速攻?」
 くすくすと杉浦が笑っている。
 度肝を抜かれた誰もが動けない。
 大海は頭を抱える。
 「普通じゃないだろ?」
 「永瀬だから出来るんだろうけどね」
 「そうかぁ???……でも俺やっぱバックアタックかオープンのが気持ちいいな」
 「まぁ、永瀬ならそうだろうね」
 杉浦が大海に手を出してきたのでそれを取って立ち上がったらキャーーと黄色い声が聞こえてきた。
 「?」
 杉浦と二人でそっちを見る。
 「…誰?」
 杉浦が眉を寄せている。見えないのだろう。
 「バスケ部女子」
 「ふぅん」
 杉浦は興味なさそうに肩を竦めた。
 
 「渡辺さん、交代」
 その後も何本かやって杉浦は自分でコートから下がった。
 「俺、教えるから」
 「ああ、頼む」
 2年なのにすでに杉浦に渡辺は低姿勢だった。
 「杉浦、大会までに渡辺はましになるか?」
 「なるでしょう」
 青山にも杉浦は普通の口調。
 大海はすげぇな、と杉浦に呆れるしかない。
 さっき入ったばっかりなのにすでに中心に位置している。
 「……やっぱ普通じゃない」
 「…何が?」
 聞こえていたらしい。
 「え?杉浦が」
 「……それはいい意味で?」
 「勿論」
 ふぅん、と照れくさそうなのがやっぱり可愛い。
 「あ~あ……皆に知れちゃったな……」
 「何が?」
 「杉浦が綺麗な事」
 「はい?綺麗?何が?トス?」
 「違う。顔」
 「………別にそんなの」
 「俺だけ知ってりゃいいやって思ってたのに…。残念」
 「は?」
 「永瀬!入れ!」
 「うっす」
 大海は青山に呼ばれてコートに入った。
 
 何しろセッターは試合で、コートの中の司令塔だ。去年の県ナンバーワンのセッターで、セッターをずっと杉浦はしてきたわけで、さらに秀でてるわけで、チームを引っ張るのは当たり前だ。
 「すげぇよな…」
 帰り道。部員のほとんどが自転車通学で皆と別れて杉浦と一緒に駅まで歩く。
 「…何が?」
 「杉浦が。始めはあんなだったのにあっという間にさ…」
 「…永瀬は面白くなさそうだね?」
 くすっと杉浦が笑った。
 「……面白くない」
 杉浦はまた眼鏡をかけて前髪を垂らしている。
 「なんで?」
 ……なんで?
 「……なんでだ?」
 大海は聞かれた自分も分からなくてそう返すと杉浦が肩を竦めた。
 なんで…。知ってるのが自分だけじゃなくなったのが面白くない。
 目の事も。
 でも…。
 なぜ?
 「永瀬、別に駅までも…いいのに。家反対方向だろ」
 「いい」
 なぜ?
 だって杉浦が心配だから。
 だからどうして?
 ずっと自問自答を繰り返す。
 「永瀬?」
 杉浦の黒い瞳が斜め下から大海を見ていた。
 「俺の顔って…ちゃんと見える?」
 「一応。……それにぼやけてても永瀬は大きいから離れててもすぐ分かるよ」
 「あ、そっか」
 この間は杉浦の手が震えながら大海の腕を掴んでいた。
 今日は見えているからちょっと離れている。
 この距離が物足りない。
 「なぁ、なんでだ…?なんで俺、面白くない?どうして…?」
 大海は杉浦に答えを言ってもらいたい気がした。
 「それ俺に聞いても仕方ないでしょ。……俺はもう答え出してるんだ。永瀬。永瀬が答え出してくれるの待ってるよ」
 「…答え?」
 「そう」
 杉浦が婉然とくすりと笑った。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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