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熱視線 小夜曲~セレナーデ~1

 怜に慌てて起こされて、怜が明羅の手伝いなしでざっと作ってくれた食事を食べて片付けをしていたらインターホンがなった。
 怜がボタンで門扉を開けている。

 そういえば調律師って…。
 「お邪魔します。……え?明羅くん??」
 やっぱり。
 「…こんにちは」
 「いや、驚きました…」
 調律師の伊藤さんは有名な人で、スタインウェイの調律では国内一と噂される人だった。
 そして明羅の家のピアノもお願いしているので勿論知っている。
 怜が面白そうに明羅を見ていた。
 「いつもと同じで」
 だが怜は余計な事は口にしなかった。
 「畏まりました」 
 掃除機とタオルを用意してあとはお任せだ。
 「怜さん…?」
 怜は明羅を連れパソコンのある部屋に入った。

 「生方からブログは?って催促が入った」
 さっき電話が鳴って怜が話していたのを思い出す。
 「あ、アドレスとか送るの忘れてた。記事一つupして送ろ?怜さんやってみてよ。設定さえしちゃえば大丈夫でしょ?」
 「……仕方ないな」
 怜は嫌そうにしながらパソコンの前に座った。
 「一番初めだから挨拶みたいな感じでいいんじゃない?」
 「めんどくさ」
 「え~?俺は嬉しいけど。シークレットライブの情報とか載せる?」
 「だから、お前は別に俺に直接聞けばいいだろ」
 「………教えてくれる?」
 「ああ。連れて行ってやるよ」
 怜が普通に言ってくれるのが明羅は嬉しい。
 ピアノの調律の和音が響くのを聞きながらブログに記事を載せ、生方にアドレスなどを知らせるメールを送った。

 調律が終わって、怜が音を確かめるようにさらりと鍵盤を触る。
 そして怜は伊藤さんには何も聞かないで、伊藤さんは帰っていった。
 「…何も聞かないの?」
 「ん?聞きたいのはやまやまだが…。お前が話すまで待つさ」
 どうしてそんな事を言うのだろう?
 見ず知らずと言っていいのに。
 それなのに10年前から見知っているというのがおかしい。
 明羅もそうだが、多分怜もその10年前からというのがなんとなく信頼じゃないけどそんな感じに繋がっているような気がする。
 「うん…ちゃんと言う、よ…」
 でもなんとなくまだ踏ん切りがつかない。
 別に今となっては隠しておくというほどの事でもないのだが。
 なんとなく…。母親と父親の名前と別に見て欲しかった。

 どこにいっても音楽をするかぎり母親と父親の名前はついてくるだろう。
 当たり前の事だけど。
 それはいいんだけど、自分で納得いっていないのに誉めそやされるのが嫌だった。
 ほんの小さい頃はコンクールとかも出たけど、怜の演奏を聴いてからは人前で弾かなくなった。
 だって自分が出したかった音を他人が出していたから。
 それでもずっとピアノは続けた。
 いつかは出せるんじゃないか、そう思っていたけどやっぱり出せなくて。
 こんなに明羅が怜の音に焦がれてるなんて知りもしないだろう。

 音大をどうしようか悩んでいたはずなのに、高校3年の夏休みにこんなにのうのうとしているのは自分くらいかも、と明羅は苦笑が漏れる。
 音大のピアノ科を考えていたけど、やっぱり怜のコンサートで明羅は無駄だと悟った。
 母親と父親の名前があれば余計にそれに甘んじられない。
 ピアノで行き詰ってPCで遊びながら作った曲をネットで上げてたらオファーがきたのに驚いた。
 今ではちょこちょことあちこちから仕事が舞い込む。そっちの道もありかも、と思い始めた所だった。
 名前は公表しないで作ってる曲。
 そこに親の存在はなくて自分だけで認められているという事に明羅は満足感を得るのだ。

 怜のピアノを聴けば刺激されて明羅の中で音は留まる事を知らない。
 いくらでもフレーズが湧いてくる。
 今は怜に貰ったラフマニノフのピアノソナタ2番の礼と、聴きたいと言った怜のためと、誕生日も兼ねて、とかなりおこがましいとは思うが、初めてちゃんと曲を作りたいと思った。

 あと二日で曲を仕上げないと。
 「俺、篭ってきていい?」
 「どうぞ?熱心だな?」
 「うん…だって怜さんに聴かせるなら変なのじゃやだし…」
 「楽しみだ」
 怜の言葉に余計プレッシャーがかかって来る。
 「お前が篭るなら俺はピアノは弾かないほうがいいか?」
 「ううんっ!そんな事はない!弾くの?弾くなら聴いてる」
 「…じゃさらっとな」
 聴ければさらに明羅の音が広がるからいくらでも怜の演奏は聴きたいくらいだった。
 
 

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