「うす」
「おはよ」
駅で永瀬は杉浦を待っていた。
「なぁ、杉浦って朝早く出てこられる?」
「え?ああ。…朝練?」
「そう」
「いいよ。勿論。でも俺よりスタメンのメンバーが…」
「勿論声かけるさ。………俺思うんだけど、杉浦がさ、…出たくても、余裕で出られるくらいなのに、それが自由にならないのが、なんかこう…それなのに俺達が何もしないってのがさ……」
くす、と杉浦が表情を緩める。
「俺の事は別にいいけど。まぁ、練習するにこしたことはないね。永瀬はいいけど、他のメンバーがね。伸びしろは十分あるみたいだけど…。確かに練習も足りないのに勝つのなんか無理だろうし」
「おはよ~~~」
学校の近くで吉村が自転車を降りて隣に並んで歩いた。
「あ、ごめん。邪魔だった?」
「何が?」
大海はきょとんとして吉村を見た。
「だって朝のおデート?」
「は?」
ぎゃははと吉村が笑い、大海は目を見開いた。
「そうだな。邪魔だな」
「ごめ~~~ん」
杉浦が軽口で答えると吉村がさらに声をたてて笑っていた。
杉浦が真面目な顔で表情も変えないのに対して大海は思わずうろたえてしまう。
「な、にバカなこと言って」
「旦那うろたえすぎ~」
「……冗談はほどほどにして。吉村、助かるよ」
「どういたしまして」
杉浦が吉村に礼を言っている。なんで?
「…なにが?」
大海は自分を挟んで隣にいる吉村と杉浦を交互に見る。
「旦那は全然空気読み取れないからなぁ…。素で近づくなオーラ出してのも自分じゃ意識してないし。周り見えないし。杉浦は別にそれでもいいんだろうけど?」
「…まぁね。でも余計な煩わしさはいらないから」
「でも杉浦的にはどうなのさ?」
「俺?俺もまた永瀬とは別の意味で周りは関係ないからどうでもいい事なんだけどね。ただ永瀬の事を考えればやっぱ歓迎される事じゃないだろ?」
「う~~~ん……俺も人の恋愛事情なんてどうでもいいんだけど。まぁ、周りには半分ふざけ位でちょうどいいんじゃない?」
また二人で大海には理解出来ない会話を始めている。
「なぁ、俺、お前らが何言ってるかわかんねぇんだけど?」
杉浦と吉村が大海を見て肩を竦める。
「杉浦大変よね?」
「…でもない。楽しいから」
「……あっそ」
杉浦はくすっと笑って吉村は呆れてる。
「なぁ、それより杉浦に言ったんだけど、朝練しないか?」
「した方いいね。主に俺達以外の奴が、だけど」
吉村も頷く。
「今日昼休みにキャプテンとこでも行ってみるか」
「…旦那、やる気満々だね。まぁ、その気持ちも分かるけど」
吉村が真面目な口調でそう言ってちらと杉浦を見た。杉浦の表情は相変わらず変わりはないけれど、吉村も杉浦のもどかしい気持ちは分かるのだろう。
「俺もチャリにすっかなぁ…」
教室に向かいながら呟いた。
「そしたら駅まで迎えに行って後ろ乗せてやる」
「…二人乗りだめだろ」
「杉浦、真面目」
杉浦は髪も眼鏡もいつもと同じ。
でも昨日バスケ部の奴らが見てて、その話が流れているのか、ちらちらと杉浦が見られている。
杉浦は気付かないのか、見えないのか、いつもと変わらず平然としていた。
そういや中学校の時だって注目され騒がれていたのだから慣れたものなのかもしれない。
綺麗な顔を隠してるのはもったいないけれど、やっぱり隠してたほうがいいかも、とも思う。
中学であれだけ騒がれてたら高校なんてもっとひどいはず。
「…杉浦、そのままな?」
「ん?何が?」
「ええと……髪と眼鏡」
「…………邪魔だから髪は切ろうかと思ってたけど」
耳にかかっている髪、前髪も長い。
「そのまま、がいい」
髪結ぶとこ見るのもいい、んだよな…。と思わずゴム咥えた杉浦を思い出して杉浦の髪に触りたくなる。
…いや、だからおかしいだろ。
「ふぅん。じゃこのままにしとく」
杉浦は上目遣いで自分の前髪を触っていた。それに思わず顔が赤くなりそうになった。
なんかエロい…?
そういやシャツ脱いでたとこもエロく見えた。
吉村も言ってたから自分だけがそう思うんじゃないはず。
大海は自分に納得させた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学