「……男が可愛いってどう思うよ?」
「は?」
吉村と並んでモップ掛けしながら大海は吉村に聞いてみた。
「…何の事?」
大海はじっと吉村を見た。
「おまえの方が小せぇんだよなぁ…。でも可愛くない」
「なんだよ!俺だって可愛いってたまには言われるのにっ!!」
「誰に?」
「誰でもいいだろっ!つうか、お前には別に言われたかないけど」
「だろ?キモチワルイ」
「………それも言い過ぎじゃね?…さすがにちょっとは凹む」
大海はげしゃげしゃと笑った。
「どうせ大海は杉浦だろ?杉浦が可愛い?……それはちょっと思わねぇなぁ…綺麗なのはわかるけど」
「それは当然だな」
「うげっ!」
ぺっぺっと吉村が唾を吐くまねをする。
「……これが素なんだからな…」
はぁと吉村が溜息を吐き出している。
「…大海は杉浦をどう思ってるわけ?かわいそう?」
「かわいそう?……は思った事ねぇな」
「じゃ、なんて?」
大海は考える。
「可愛い。綺麗。もっと頼ればいいのに。もっと言葉でも愚痴でも出せばいいのに」
「大海……」
吉村が絶句したので顔を見ると真っ赤になってる。
「聞いてる俺が恥ずかしい~~~~!!!それ俺に言っちゃだめでしょ。杉浦に言えよ」
「は?だってお前が聞いてきたから」
「信じられな~~~いっ!お前って今まで好きになった子いないの?」
「いない」
「いない~~~!?…嘘だろ」
「好きになるってどんな…?」
大海は小さい声で吉村に聞いた。
「え~~…ドキドキしたりとか、話できて嬉しいとか。会えて嬉しいとか、可愛いな、とか…」
「…………可愛い…?…ドキドキ…」
「…こうなんか特別っていうかさ~…なんかチョー恥ずかしいんですけどっ!」
吉村がしどろもどろに答えた。
「じゃなくて!もう…っ!!とにかくさっきのは杉浦に言えっ!」
吉村は顔を赤くしたまま走ってモップを押しながら逃げていってしまった。
どきどきする…?
杉浦に妙にどきどきする時はある。
何気ない動作の時も。
前髪かき上げて伏せた睫毛が長いのが見えた時とか、黒い瞳が思いがけずじっと大海を見た時とか。
そういえば始めのうちは視線を合わせる事がなかったのにいつの間にか杉浦は大海をじっと見る時がある。
その目を思い出して思わずうろたえそうになった。
「杉浦、今日どんくらい見えない…?」
「………視界半分以上ない、かな」
はぁ、と大海は溜息を吐き出した。
「…言えよな」
杉浦が黙る。
駅までの帰り道。
いつも二人で並んで歩く。自転車も考えたけどやっぱりこうやってゆっくり歩く時間のほうがいいかも、と思ってしまう。
吉村に言われた事を思い出した。
「もっと頼っていい。言葉も、愚痴でもなんでも言っていいから」
「……言えるわけないだろ」
「俺は言って欲しいけど。お前の気持ちはお前のものだけど…。俺には言って?いくらでも聞くし、受け止めてやるから」
「…………おかしくない?」
「何が?」
「なんで永瀬に言わなきゃないの?」
「ん~~~……なんでだ?でも他のやつにはダメ…だ」
自分じゃなくてもし他の奴に杉浦が言うようならそれはちょっと、いや、かなり許せないかも。
何故…?
前にも杉浦に聞かれた。
ちらと杉浦を見たら大海の顔をじっと眼鏡の奥から黒い目で見ていた。
どきりと大海の心臓が鳴った。
やっぱり可愛い!
大海は手の甲で自分の唇を塞いだ。
「…だから、可愛いって!!」
「は?」
「おまえヤバイ」
「綺麗だし、可愛いから」
吉村が杉浦に言えって言っていたのでそれを実行してみる。
「な、何言って…」
驚いた顔をした杉浦が次の瞬間に顔を赤くしているのにさらに可愛いと思ってしまった。
「…やっぱ可愛い」
「永瀬…お前、…一体何が言いたいんだ…?」
「…俺も分からない…。吉村が直接杉浦に言えって言うから」
がしがしと大海も頭をかく。
なんか照れくさくなってきた。
はぁ、と杉浦が溜息を吐き出して頭を抱えた。
「……吉村か…。余計な事を」
「……言ったらだめだったか?」
「だめじゃないけど」
元に戻っていた杉浦の表情がまた照れているようだ。
やっぱり可愛いし、どきどきする。
ん……?
吉村が言ってたじゃないか。
好き…?
杉浦を?自分が?
まさか……。
大海はじっと杉浦を見た。
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