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太陽と月の欠片 答え3

 「永瀬」
 杉浦の顔が近い。
 あれ?眼鏡かけてないぞ?
 杉浦やっぱ綺麗だ。
 男で綺麗ってホントあるんだよな~、と杉浦の顔に見惚れる。
 だから顔近いけど…?
 目の前に…。
 唇が目に入る。
 目の前にある杉浦の唇に吸い寄せられるように視線はそこだけに向いて…。
 「永瀬」
 その唇が大海をいつも呼ぶ苗字の形を作った。
 赤い舌がちろりと見えた。
 「杉浦」
 大海の手が杉浦の頬を挟んだ。
 顔を近づけていく。


 「うわぁああ……っ!」
 大海はベッドから飛び起きた。
 外はもう明るくて丁度目覚ましが鳴ったのをすぐに止めた。
 「ちょっと待て……」
 ベッドで胡坐をかいて大海は頭を抱えた。
 夢…。
 だけど、生生しい。
 杉浦の唇と舌が鮮明に思い出される。
 嘘だろ…。
 朝のコレは当然だけど…。
 妙に興奮してる。
 大海は主張してる自分に戸惑う。
 ……もうちょい目覚めるのが後だったらキス出来たのに。
 思わずそう思ってしまってさらに戸惑う。
 好きとか、そんなの考えてたからこんな夢見たんだ。
 好き?
 杉浦を…?
 かっと顔が熱くなってくる。
 そして熱が治まるまでしばらくかかってきまった。

 
 「おはよ…」
 「…うっす」
 いつもの様に駅まで杉浦を迎えに行った。朝練の時間なので学校の生徒はいない。出勤で急ぐ人達の姿くらいだ。
 「…どうだ?」
 「ああ。昨日よりましになってるから大丈夫」
 「そっか…。よかった。……じゃ、行くぞ」
 「……永瀬?どうかした?」
 「え?ああ、いや…何もない」
 大海は慌てた。
 朝の夢のせいでなんとなく自分の中が落ち着かない。
 杉浦を穢してしまったような気がしてならない。
 そんな事は別にないのだが…。
 なんとなく自分が後ろめたくて仕方ないだけだ。
 それなのに大海の目は杉浦の口元にばかり吸い寄せられてしまうのだ。
 杉浦の顔を見ない方がいいかもしれないとふいと大海は杉浦から顔を背けた。
 どうしよう…。
 まともに杉浦の顔が見られない。
 大海が左側を歩く杉浦を動揺して見られなくていたら杉浦に腕を引っ張られた。
 「杉浦、どうかしたか?」
 すぐになにか異変でもあったのかと大海は杉浦を見た。
 「……どうしたは俺が聞いたんだけど?……永瀬…」
 杉浦が何故か無表情になっている。
 「杉浦?」
 「………顔を背ける位俺が嫌なら、別に…」
 杉浦の無表情の顔が歪んでくるのに大海は慌てた。
 「違うっ!そうじゃ、ないから…困ってる、のに」
 「…そうじゃない?……困ってる…?」
 「いや、気にしないでくれ…。これは杉浦じゃなくて、俺の問題で…」
 「永瀬の?」
 杉浦が不思議そうな顔になった。
 その時でさえ杉浦の唇に目を奪われてしまう。
 「永瀬?」
 杉浦の口が、舌が、形を作るのにどくりと身体が脈打つ。
 うわっ!夢と同じ感じ!
 思わず逃げたくなったけど杉浦を放っていくわけにはいかない。
 「杉浦っ!」
 前から飛ばしてくる自転車がやってきて思わず杉浦の肩に手をかけて引き寄せた。自転車はスピードも落とさず脇をさっと通り抜けていく。
 朝は出勤や他の学生が急ぎ足だったり、自転車を飛ばしたりするので危ないのだ。
 「危ねぇな…」
 「ありがとう」
 「い、いや」
 大海は慌てて手を離した。自分と杉浦じゃ肩の肉のつき方が全然違う。
 薄い。
 「…もう少し近づいとけ」
 「あ、うん」
 そっと杉浦が大海の斜め後ろで距離を詰めた。
 それが妙に満足で、いったい自分の心の中はどうなっているのか。
 大海を掴んでいた杉浦の腕はもう離れていたけど、掴んでていいとも思ってしまう。
 それにしたって肩掴んだだけで動揺ってどうなんだ?
 別になんでもなかったのに。
 やっぱりあの夢が原因としか思えないけど…。
 そもそも夢見たのはやっぱり杉浦が…?
 好きなのだと言われれば独占欲を感じるのも納得がいく。
 いちいち反対方向の駅まで迎え、送り、それで満足で。
 今だって自分が杉浦を守れればそれで誇らしい感じだ。
 自分で自分を誉めたくなる。
 だから……やっぱり…?
 大海は左斜め後ろに振り向いた。
 「何?」
 「いや」
 すぐに杉浦が反応して顔を上げる。
 だから黒い瞳が…。唇が…。
 思わず大海は杉浦から視線を外せなくなってしまって凝視してしまいそうになったが慌てて視線を前に戻した。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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