大海はその日ずっと一日落ち着かない気分だった。
授業中でも後ろからずっと暇さえあれば杉浦の姿を目で追ってしまう。
何気ない動作にどきっとして、髪をかき上げたりする姿にはやばいほどどきどきして見ていられなくなるほどだった。
おかしいだろう、と思いながらもおかしくないとも思う。
やっぱり好き、なのか?
吉村の言った言葉を思い出し、どう考えてもやっぱり杉浦の事が気になってしまう。
今までバレーばっかりで女になんか目がいかなかった。
いや普通に雑誌とかでは見たりはしてたけど、身近にいるクラスの女子なんかには目が向く事はなかった。
中学の時とかも告られた事があって一応付き合うって事になった事もあったけど、バレー中心だったし結局なにしていいかも分からなかったしで何もないまま終わった。
興味はあったけど自分に、はどうも当てはまらなかった。
そういえばあんな夢見たのだって初めてだ。
しかもその相手が杉浦って…。
キス…。
思わず夢の杉浦を思い出して顔を俯けた。
男相手に?と思わなくもないけど…。
ちらっとクラスの女子を眺めれば別に誰にもキスしたいなんて思わなくて、杉浦を見れば夢まで鮮明に思い出されて動揺する。
男相手に…?
お年頃なので興味は勿論あるけど。
どんな感じだろう、と思うけど。
誰でもいいとは思えないし…。
杉浦だったら…?
はたと杉浦が着替えをする所を思い出した。
男同士だし普通に着替えもするけど…。
部活で汗かきゃ普通に脱いで着替えるし。
ふと中学の時に友達ん家で見たAVを思い出した。
あれを杉浦相手に出来るか…?
男相手なんて萎えるだろうと思ったけど…。
大海は頭を振った。
何考えてるんだか…。
大海は授業に集中することにした。
ノートは元々ちゃんと取ってはいたけれど、今では必ず取る事にしている。杉浦が目の調子が悪いと見えなかったりして貸してと言われるから。
頭の中の雑念を追い出すように大海は授業に集中した。
そこからなるべく意識しないように、と大海は自分に言い聞かせ、杉浦にも変だ、と思われないようにしないと、と普通を装った。
「…今日、永瀬、変」
普通のように、のつもりだったのに結局杉浦に部活に行く時に言われてしまう。
まぁ、自覚はあったので頷く。
「……分かってる。気にしないでくれ」
大海は頭をかく。
周りはもう大海と杉浦が一緒にいてもそれが普通の状態で何とも思わないのか、さして注目される事もなくなっていた。
「目は?」
「大分いいから」
「ならいいけど。無理はするな」
出血は急に広がったりもするらしい。朝大丈夫だから一日大丈夫というわけではないらしいのだ。
いつ広がって視界を遮られるのか分からないらしい。
「言えよ?」
「……分かった」
杉浦が頷いた。頷いたって自分から言わないだろうな、とは思うけど…。
部活は先生も顔を出してくる時もあるが実際監督にはなれない。
ルールも分かっているが、競技としてのバレーは未経験だ。
それでいったら小学校からクラブに所属していた者もいる自分達のほうがよっぽど分かる。指導者がいればもっと変われるのかもしれないが公立の学校で、さして強くもない部活にそれは難問でしかない。
やっぱり自分達でどうにかするしかなかった。
それでも大海は全国区の練習にも参加した事もあってこんな練習をしたとか、それぞれの中学の時の練習などを混ぜどうにか以前よりもずっとましになったと思う。
先生にどこかと練習試合がしたいと訴え、先生とキャプテンが練習試合を組んだ。
試合は土曜日。
そこ目指してさらに気合が入ってくる。
相手は去年まで同じ位の成績だったところ。
せいぜい三回戦止まりクラスの学校だ。
練習試合が決定した事でさらに気合が増し、今日の練習は誰もが力が入った。
男なんて単純で分かりやすいもんだ。
皆と別れて駅に杉浦と歩いて向かう。この時間が大海は好きだ。
それを思えばやっぱり自分はそうなのか、と杉浦をちらっと見た。
朝と帰りのこの時間は邪魔が入らなければ杉浦と二人だけの時間だ。
教室でも部活でも誰かはいるわけで、この時間が欲しくて大海はわざわざ遠回りしているのだとすとんと理解した。
杉浦が心配で、というのは表向きの理由だ。それだって普通の日なら何度も杉浦が言っていたように大海は必要ないのだから。
自分がただそうしたいだけなのだ。
テーマ : 自作BL小説
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