「…永瀬…」
「ん?あ、何?」
呼びかけられて大海は大海の左側を歩く杉浦を見た。
「あのさ……本当に、普通の時は駅までとか別にいいから」
杉浦が顔を俯けながら言った。
顔を俯けられると杉浦の黒い髪しか目に入らなくなる。
顔が見てぇなぁ…と素で思ってしまう。
「杉浦こそ気にするな。俺は俺がしたいからそうしてるだけだし」
別に最初から杉浦に頼まれたことでも何でもなくて大海が駅まで迎えに送りにを勝手に始めた事だ。
「…杉浦が嫌だって言うなら…やめるけど…」
そう言えば杉浦はすぐに首を振った。
「嫌なはずない。…けど、ノートだってなんだって全部永瀬に迷惑かけてるのに…」
「迷惑?全然。もっと言っていいって言ってるのに。なんなら家までついてきたいところだ」
杉浦の家は遠いのでさすがにそれは往復の電車賃もかかるし無理だが近かったらきっと毎日通っていただろうとは思う。
そこまで思えばやっぱりどうしたって普通ではないと自分でも思う。
もし杉浦の状態が吉村だったとしたら?
ひどい時は心配だからついていくだろうけど、大丈夫だという日ならついていかないだろう。
それを考えたらやっぱり杉浦が好きなんだ。
だから無意識にあんな夢まで見たんだ。
それにしても自分が杉浦を好きだと気付く前からバレー部内ではすでに旦那呼ばわりってどうなんだ?
それに対して杉浦は一言も発していない。
杉浦は一体どう思っているんだろうか?
今初めて杉浦が大海をどう思っているのかが気になった。
「………杉浦は、俺が付き纏う様にしてるの迷惑か…?」
「まさか」
そこをすぐに否定されて思わずよかった、とほっとしてしまう。
そういえば前に杉浦の綺麗さが知れて面白くない時なんで?と問われた。
そしてあの時杉浦はなんて言ってた?
答えは決まっている、と言ってた。
何の答え…?
「なぁ、…前にさ、杉浦、答えは出してるって言っただろ?答えって何?」
「…それを俺に聞くのはルール違反だ。永瀬が答えを出してからじゃないと無理」
「はぁ?……なんだそれ…?……難しいぞ?」
「全然。単純な事だけど?」
顔を上げた杉浦がくすっと笑った。
「え~~?……わかんねぇ」
「簡単だよ。どっちかしかないから。俺はもう決まってる。あとは永瀬がどうするかだけ」
「………」
大海が首を傾げると杉浦は自分の口元を押さえて笑っている。
「でも永瀬にはリスクが大きすぎる。だから俺から答えを言う事は絶対にない。ちゃんと考えてから言ってね」
「……ちゃんと?」
「そう。リスク考えて、だよ?」
「リスク…?」
どうにも簡単だと杉浦は言うけれど大海には簡単には思えないのだが…。
「もう少し分かりやすくなんねぇ?」
「ならない」
う~~、と大海が唸ればくすくすと杉浦が笑う。
それが可愛いに見えるんだからやっぱりそうなんだとしか思えない。
男に可愛いなんて思った事なんかない。
しかも杉浦だって大海よりは身長はないけれどそれだって170以上はあるわけで、どうみたって可愛いにはならないはず。
それなのにやっぱり大海には可愛いに見える。
あ、キスしてぇ…。
杉浦の唇を見てふっと自然にそう思ってしまえばもうどうしたって答えは決まっているようなものだ。
ん?
答えは決まっている…?
大海はじっと杉浦を見た。
答えってそういう事…?
杉浦はもう出しているって言った。
「なぁ、質問してもいいか?」
「何?」
「杉浦の言ってた答え、出したのって……いつ…?」
「…………いつ……?」
杉浦が考え込んでいた。
「…きっかけは去年。決定は………いつのまにか、かな……」
去年…?
県大会の時…?
ああ、そうだ。
あの時から大海もずっと杉浦から目が離せなかったのだ。
「……リスク、だよ?」
杉浦が自嘲の笑みを浮べてさらに念押しをしてきた。
「じゃ、また明日」
「え?あ、ああ」
もう駅に着いていたらしい。全然気付かなかった。
「気をつけてな?」
「ああ、ありがとう」
手を振って杉浦と別れる。
家に向かいながら大海がずっと考えていたのは杉浦の事、杉浦の言った事ばかりだった。
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