「お邪魔します~」
「…誰もいないって。部屋行ってて。飲み物持ってくから」
「ういっす」
勝手に階段を上がって杉浦の部屋に入る。
前に来た時と同じように綺麗に整頓された部屋。
前と同じように小さなテーブルの前に座った。
すぐに杉浦が飲み物を持ってくる。
「パンもあった。食う?」
「食う!」
コーヒーと一緒に持ってきてくれ、さすがに試合後で小腹が空いてたのでありがたくそれをいただいた。
バレーの雑誌を見たり、今日の試合の反省と課題について話したりとするけど、大海の頭の中は答えの事でいっぱいだった。
どこか気がそぞろになる。
会話がぷつりと切れた。
じっと杉浦を見た。
杉浦も落ち着かないらしいのが見えた。
見せないようにしているけど…。
くすっと思わず大海は笑いが漏れた。
「何?」
むっとした感じなのが可愛い。
「…いや、……俺、杉浦好きだわ」
杉浦が息を飲んだ。
そしてふっと吐き出す。
「……リスクは?」
「リスクって何?」
大海は首を傾げた。
「…考えてって言っただろ」
どうやら答えは間違いではなかったらしい。
顔がにやけてくる。だって杉浦の顔が微かに赤い。
「…永瀬は全日本に行く」
「あ、そうなの?」
「そうなの、じゃないだろ!」
「だってそうだとしたって別に杉浦好きなのに関係ないもん」
「あるだろっ!…それに俺は目が…」
「だからそれも関係ない」
「あるに決まってるだろ!」
「ないよ」
大海は杉浦を見た。
杉浦が大海から視線を外して顔を背けた。
「杉浦。目も何も関係ない。始めはトスの綺麗さに惚れたようなもんだけど。今はそうじゃない。目もひっくるめて全部が杉浦だろ。未だにお前のトスで試合がしたいという気持ちは変わらない。お前以上のセッターは俺にはいないと思う。でもバレーも杉浦の一部でしかない。全部集まって杉浦を作ってるんだ。その杉浦が好きだ。…リスク?何が?俺はお前の傍にいたい。だからいるんだ。……ダメなのか?」
「……俺、迷惑しかかけてないけど…?」
「迷惑?いつ?」
「だって…目…」
「だから、迷惑じゃないって。俺がしたいからしてるんだ。それに俺はちょっと嬉しいし」
「……嬉しい?」
杉浦が怪訝な顔をした。
「そう。だって杉浦は俺がいないとだめだ、って思えるのがちょっと嬉しいんだ。それに手とか触ってても大義名分あるし」
「…そこ?」
「そこです」
うんと大海は頷いた。
「本当は毎日家まで迎えに来て、送っていきたい気分なんだけどさすがにそれは金がキツクて出来ないけど」
「……別にそこまでしなくても」
「だから、俺の心情的にって話。杉浦は気にする事ない」
「………永瀬、目、見えない」
「えっ!!」
大海は驚いて立ち上がって杉浦の隣に移動した。
「杉浦…?大丈夫か?どんくらいだ…?」
顔を覗きこむ。
真っ黒の瞳だ。綺麗な。これが見えないなんてなんて酷な事か。
その瞳が近づいてくると大海の唇に杉浦の唇が触れた。
「す、す、杉浦っ」
大海は顔が真っ赤になった。
「お前!見えないって嘘だな」
「うん。でもはっきり見えないのはいつもで、本当だ。永瀬?気持ち悪くない?」
「は?何が?」
「だから…!」
キスの事か?
杉浦の顔は怒った風を見せているがこれは照れているだけだろう。
「杉浦」
大海は杉浦の身体を抱きしめた。
今までも何度か身体は抱きしめているけれど意味が違う。
バレー中でもないし何かから庇うのでもない。
「杉浦。俺はお前が好きだ。気持ち悪いはずないだろ。言っちゃ何だが夢にまで見たくらいだ」
「夢?」
杉浦が眉間に皺を寄せた。
「そう」
大海は杉浦の眼鏡を外すとテーブルにそっと置き、頬を両手で挟んだ。
「こうしたくて…」
そして唇を重ねる。
合わせるだけ。
心臓は壊れたみたいに大きく脈打って、バレーの試合でもこんなに緊張した事ない位緊張していた。
「杉浦の答え、は…?」
テーマ : 自作BL小説
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