「俺の答え?だから決まっているから」
「だから!!」
杉浦は首を振った。
「聞かない方いいよ」
「……杉浦、ずりぃ」
くすっと杉浦が笑った。
「ずるくない。俺はもう最初から決まってるんだ。でも永瀬にはまだ逃げ道を残しておいてあげる」
「………別にいらねぇし」
杉浦は首を振った。
「だめだ」
「………いいよ。言わせればいいんだろ?とりあえずキスはOKと。俺が傍にいるのもだめじゃない?」
「勿論」
杉浦がにっこりと笑う。
「それで……答えは無し?……付き合ってる、にはならない?」
「いや、……それは、いい、よ」
「…………おかしいだろ」
大海はむっと口を結んだ。付き合ってる。キスもする。でも言葉はなし?
「……悪い。俺の都合よすぎってのは分かってる……。けど、俺の中ではまだだめなんだ。……永瀬を信用してないとかじゃない。永瀬の逃げ道じゃない、俺の逃げ道なのかも…」
「……お前難しすぎる。……いいよ。分かった。とにかく杉浦は嫌じゃないんだな?」
こくりと杉浦が頷いた。
「…分かった」
「ごめん。でも絶対……俺は…その、ないから」
「何が?」
「…………なんでもない」
杉浦が何を言いたいのか?
単純な大海には分からないけれど。
今は腕の中の存在が大事だ。
「杉浦…キスしていい?」
「……断らなくていいから」
杉浦がふいと顔を背けたけど、耳が赤い。
…可愛い。
大海はもう一度確かめるように唇を重ねた。
どうしたって現実に思えない。
本当の事だろうか、と思いながら、杉浦の髪を触り、手で感触を確かめながらだ。
「う~…」
唇を離して頭をがりがりと搔いた。
照れる。
杉浦をチラッと見ればやっぱりどうしていいのか分からない様子で自分だけじゃないと思えば笑いが浮かんできた。
杉浦からの答えはまだもらえていないけれど見た感じでは拒絶はされていないし嫌がってもいないみたいなのでよしとする。
いや本当は全然よくなんてないんだけど!難しく色々な事を考えなきゃ気がすまない杉浦だろうし、きっと大海が問い詰めたって杉浦が簡単に折れるはずはないだろう。
だから仕方なく、だ。
…よしとするけど、抱きしめてるこの体勢からどうしたらいいんだろう…?
手もどうしたらいいのか?
ぐるぐると余計なことに頭が回ってくる。
だいたいこんなシチュエーションなんてなかった事で経験値が少なすぎる。
「永瀬」
杉浦が手で大海の身体を押してきて大海は杉浦の身体を離した。
離れた事にほっとし、そして物足りなく感じる。
「おまえ、でかい…」
「そりゃ、仕方ない。でかいから」
杉浦だって173身長あるけど、腺が細い。大海は190近くまで身長が伸びたし身体も杉浦よりずっとガタイがいいし腕だって太い。
「杉浦はモデルみたいな体型だよな……」
顔も綺麗だしモデルになれるかも、とじっと杉浦を見た。
ん?そういや専門学校に進路決めてるって言ってたのを思い出した。
大海は杉浦から離れてテーブルの向かいに席を戻る。
「なぁ、そういや専門に行くって言ってたよな?トレーナーとか整体師とかそっちの方って」
「ああ。言ったよ。普通の仕事じゃこの目じゃ無理だ。書類だって細かい字が見られないし、パソコンなんかもキツイ。運転免許はとれないだろうしね」
「…………じゃあさ、俺専属な」
「はい?」
「…俺、全日本行くんだろ?だから杉浦は俺専属で!」
「…………いいよ」
「うしっ!……それだったら一緒にいてもおかしくなくね?」
「…………そう、かも、ね」
「じゃあ杉浦はがんばってそっち。俺も頑張って全日本!そしたら杉浦とオリンピックの舞台とか一緒に行ける?」
「…かもね」
ぷっと杉浦が笑った。
「永瀬、話飛躍しすぎ。全然全日本の事なんて考えてもなかったくせに」
「…考えるよ。杉浦の分も」
「…………」
杉浦が顔を俯けた。
本当なら絶対杉浦もセッターになれるはずだ。全日本で大海と一緒に立てたはず。
でもそれが叶わない。
そこだけがどうしても大海には悔しくて仕方ない。どうして神様は杉浦にこんな事を与えたのだろうか…。
その分の思いも大海は背負わなければならないと気持ちを引き締めた。
今までは別に全日本とかまぁなれれば、位の感じだったがこれからはそこを目標にする、と大海は腹を括ることにした。
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