side 悠
昨日の試合を反省して永瀬とキャプテンはセッターとの連携を中心。他のアタッカーはブロック中心の練習。
コートをはさんでセッターと永瀬とリベロの吉村。吉村が拾ってセッター渡辺がトスを上げて大海がスパイクを打つのにネットを挟んでブロックの練習。
「タイミング遅い!揃ってない。手もっとまっすぐ伸ばして前出さないと。穴あいてるからちゃんとお互いの身体つけて。渡辺さんはトス低い。もっと高めで早く」
悠が一回一回細かく指示を出していく。
「永瀬、交代。次キャプテン、速攻練習。渡辺先輩はちょっと休んでてください。俺変わるから。休んでてもボールの角度とか速さ、タイミング見てて下さいよ?キャプテンは俺が構えてボールに触る直前にジャンプして下さい。あと思い切り腕打ちおろして」
「………分かった」
「ブロックも速攻にもある程度つけるようにしておかないと!」
自分の不遜なと自覚がある言い方にキャプテンも先輩方も何も言わないで頷き、練習をこなしていく。
「吉村、よろしく」
「おっけー」
ボールを正確に高く上げてもらわないと悠の目ではついていけない。頼りは吉村なのだ。
そんな感じでアタッカーの強化とブロックの強化、といってもどうしたって付け焼刃でしかない事は分かっている。
でもやれることは少しでもやるべきだ。
予選まであと2週間しかない。
「土曜はまた練習試合だ。相手は去年の県ベスト8に入った所だ。杉浦、課題は?」
キャプテンに促されて悠が口を開いた。吉村が言ってたようにこれじゃ自分が監督かコーチか?
「永瀬はスパイク決定率70%目標。キャプテンは速攻で7本は決める事。ブロックは10本。渡辺先輩は3本に一回はコンビ出す事。あくまで目標ね」
「はーい!目標達成できたら?」
アタッカーの一人が手を上げた。
「できたら?出来ればいいんじゃないの?」
悠は眉を顰めた。
「ご褒美!杉浦からキスくれるとか~」
「反対!!!反対!!バカ言うな!」
「旦那は黙ってろ」
ギャーギャーと声があがって盛り上がってるのに悠は頭を抱えた。ガキくさ。
「いいよ別に。ヤローにキスされたい気持ちが理解出来ないけど」
おお!と声が上がる。
「永瀬?」
帰り道。ずっと永瀬が面白くなさそうだった。
「…なんでいいよ、なんていうんだよ」
「ふざけてるだけだろ」
「…それでも面白くない。俺だってまだ何回かしかキス出来てないのに」
むっと永瀬が口を尖らせながら小さく言うのに思わず悠は笑ってしまう。
身体は大きいのに可愛い奴。
普通の日は駅までの行きかえりと学校だけでどうしたってキスなんて無理だ。
「…70%な?」
「……鬼畜」
悠はくすくすと笑った。
「いいよ!絶対決めてやる!…あ!そういや土曜ウチ来る?うちの親が杉浦連れて来いってうるせぇんだ。俺だけ厄介になってってさ」
「…いいの?」
「いい。……部屋の片付けは…しとく」
まだしてないのか。くっとまた笑ってしまう。
永瀬の部屋はどんなだろう?
「いいけどウチ弟ちっせぇのいるんだわ。うるせえぞ?」
「え?小さい?」
「そ。まだ小学校1年。10こ違い……そういやお前も上が10こ上って言ってたな」
「まるきり反対だ。へぇ…永瀬はお兄ちゃんか」
「なんだよ」
「いや、世話好きみたいだし、ありじゃない?」
「世話は嫌いじゃないけど…まじでうるせぇぞ?」
「…楽しみかも」
なにしろ悠の家はしんと静まり返っている。息が詰まりそうなくらいに。
「そうかぁ~~?俺はお前の部屋の方が静かで落ち着く。ま、いいけど。じゃ言っておく」
「ん」
永瀬は自分を隠さない。悠はこんなに自分に都合のいいようにしてるのに永瀬は変わらないのだ。
変わらないばかりか悠にとって嬉しい言葉ばかりを出してくる。態度もそうだ。
きっと何も考えていない。だからこそ本当の言葉や態度だ。
「永瀬、楽しみにしてる」
「………部屋片付けないと」
「………そんなにひどいのか?」
「ん~~~~…ひどい、ほどじゃないと思うけど……いや、やっぱひどいな」
「…掃除しといて」
「うい~っす」
永瀬は頭を掻きながら返事してるのに笑ってしまう。
家じゃ笑うなんてことないのに永瀬がいれば悠は自然と笑えるのだ。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学