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太陽と月の欠片 部屋7

 バレー部はほとんどが自転車組だ。電車は杉浦だけ。歩きが大海ともう一人。でも方向が違うので大海と歩くのは杉浦だけ。
 「荷物持つ。多くねぇか?」
 杉浦はいつものリュックの他に大きな荷物を持っていたのでそれを取り上げた。
 「明日の部活の分の着替えとか。あと母親に永瀬の家にってお菓子持たされてる。永瀬、荷物いいって。女じゃないんだから自分で持つ」
 「いいから」
 自分の通いなれた道を杉浦と一緒に歩くってのがなんとなく照れてくる。
 「こっちの方全然来た事ないから道とか知らないな」
 杉浦がきょろきょろしながら周りを見ている。
 「だろうな。俺も杉浦の家の方は知らないし」
 杉浦が大海のちょっと後ろをついてくる。
 「まじでウチうるせぇぞ?母親もうるせぇし!」
 「いいって。……その方いいかも…」
 小さく杉浦が言っていた。うるさい方いい?静かなほうがいいと思うけどなぁ?と大海は首を捻る。
 

 「お邪魔します」
 家の玄関で杉浦が頭を下げているのにどうも落ち着かない気がする。
 「いらっしゃ~い!先週はうちの息子がお世話になって」
 何となく彼女紹介な気がするのはきっと大海だけだろう。
 「いいって。ほら入れよ。こっち」
 大海は母親がべらべらと口を止めそうにないのを察知して杉浦の腕を掴んだ。
 部屋に入ってドアを閉める前にうるさくするな、入ってくるな、と母親と弟に注意してドアを閉めた。
 杉浦は口端をずっと緩めてて笑いを堪えているらしい。
 「適当に座って」
 といっても杉浦の部屋みたいにテーブルもないので机の椅子かベッドか床しかない。
 杉浦は荷物を置いてそっとベッドに腰かけた。
 「なんだ綺麗」
 「……片付けたもんよ」
 鉄アレイとかハンドグリップとかもちゃんと片付けた。極力床には何も置かないように気をつけた。
 くくっと杉浦が笑ってる。
 「ゲームするんだ?」
 「おう。するぞ」
 杉浦は面白そうにきょろきょろして物色してる。
 バレー雑誌を見つけて手に取ったので大海も杉浦の隣に座って一緒に覗き込んだ。
 そこからバレーの話。
 今日の練習試合の事から話はいくらでも尽きない。
 尽きないけど、大海の意識は隣にいる杉浦に向いている。
 すぐ隣で手をかければ杉浦を抱きしめられる位だ。
 そんなに大きくない部屋に190と173のヤロー二人でむさ苦しいはずだけど杉浦に限ってはむさ苦しくない。
 大海、飲み物~と母親からの声に大海は立ち上がった。
 「あ、永瀬」
 杉浦もバッグを開けて母親から持たせられたというお菓子の箱を出した。
 飲み物を受け取りまたドアをすぐ閉める。
 「なんだ、全然弟静かじゃないか」
 「いや、猫かぶってる。いつも纏わりついてうざい位なのに」
 弟は母親の影から杉浦をうかがっていた。
 床にお盆に乗せられた飲み物を置いた。ケーキまでついてる。
 「…もしかしてわざわざ…?」
 「気にするな。杉浦の事楽しみにしてたらしいから」
 「…なんで?」
 「去年の大会見に来てるんだよ。うちの母親。杉浦の事綺麗綺麗騒いで大変だったから。…ミーハーなんだ」
 「………それはどうも。じゃ眼鏡外して髪あげた方いい?」
 「わざわざ見せてやる事もないけど」
 杉浦が眼鏡を外した。それにいつもどきりとする。
 「実際眼鏡は意味ないし、俺も本当は眼鏡ない方いいんだけどね。紫外線カットの意味もあるから一応外ではかけるけど」
 「そうなのか?」
 「ああ。別にかけなきゃないわけじゃないけど、顔隠すのに都合いいからかけてるだけだし。どうせかけるならってかけてるだけだけど」
 大海は眼鏡を取った杉浦の前髪に手をかけた。 
 ベッドに並んで座るってまずい気がする。親もいるしナニする気はないけれど。
 杉浦の前髪をかきあげ、そのまま顔を近づけた。
 軽く啄ばむようにキスしたのはいいけれど。
 「……滅茶苦茶照れる」
 小さく呟いてそのまま杉浦の肩に顔を乗っけた。
 「…さっきもしたのに?」
 杉浦の声が近い。
 「さっきのは杉浦からで不意打ちだろうよ」
 「なんだ?ご褒美だったのにいらなかったか?」
 「いるに決まってる。杉浦、もっと、…って言ったら怒るか?」
 「…怒るわけない」
 大海が顔を上げると杉浦から顔を近づけてきた。
 いいけどこのまま杉浦を後ろに押し倒したくなる衝動を抑えるのにかなり我慢が必要だった。

 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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