夕食の時間前、部活で汗かいただろうからと先に風呂を勧めて、あがってきた杉浦の眼鏡なし、おまけに髪まで結わえて顔を出した杉浦に母親は目がハート状態。
弟まで見惚れる始末。
大海は呆れて杉浦を見た。
杉浦は見た事ないような愛想顔。いつもの無表情が嘘のようだ。
いや、誰でも杉浦見たら綺麗だとは思うだろうけど。
「おいしいです」
にっこり笑みを浮べて杉浦が言えば母親が舞い上がっている。
「綺麗~~~!かっこいい~~~!」
そこは確かに、と頷く。
先週とまるきり反対で、今日は大海の部屋に布団を運ぶ。
「……俺、人の家泊まるの初めてだ」
杉浦が布団の上に座って笑っていた。ご機嫌らしい。
「そうか?俺はけっこうあるな。小さい頃だけどな。しかしお前愛想よすぎ」
「だって永瀬の身内だから。いい印象持たれておかないと」
「……そうか?」
「そう」
杉浦がふっと笑う。
答えは出してるって言ったけど答えてくれない杉浦なのに、関係ないとか言うのに、杉浦はどう見たって鈍い大海にも分かる位に自分は意外と杉浦に好かれているとは思う。
キスだって自分からもしてくれる位だ。
ご褒美とか名目あってもする気がなければ杉浦ならきっと冷たい視線を向けて終わりなはず。
杉浦が自分の部屋にいるのがまだ信じられない位だ。
いいけど、杉浦にずっとどうもムラムラしてる気がする。
やばいな…。
大海は頭を抱え込みたくなった。
触りたくて触りたくて仕方ない。
テレビはつけて音は出してるけど全然見てないし、気は杉浦にしか向いていない。
「……永瀬のお父さんは?」
「あ?ああ、単身赴任。………どうした?」
杉浦が顔を俯ける。
「うちは…俺のせいでばらばらなんだ…」
大海は自分のベッドから降りて杉浦の隣に座った。
「父親は俺の目を全部母親のせいにして喚いて帰ってこなくなった。金はくれてるらしいけど」
そういえば先週泊まった時もお父さんはいなかった。自分とこと同じで単身赴任かな、と大海は思ってただけだったが。
「………杉浦のせいじゃないだろ」
「…そうかもしれないけど…。きっかけは俺だし…」
「だから、それだって杉浦のせいじゃないだろ」
「……母親が毎日謝るんだ…」
大海は顔を俯けたままぽつりと話す杉浦の背を撫でた。
もどかしい。なんと言ったらいいのか自分には分からない。
「……悪い。こんな事言うつもりなんて微塵もなかったのに」
「いくらでも言っていい。杉浦は達観しすぎだし、我慢しすぎだと思う。本当なら喚いて泣いて騒げばいいんだ」
「……そんな子供みたいに」
くすっと杉浦が笑う。
「え~~!俺は言いたいけど?杉浦とバレーがしたい!試合に出たい!お前のトスが打ちたい!って」
「…永瀬」
杉浦が顔を歪めた。
「俺、だって……したい、……去年、お前のスパイク見て…」
杉浦が肩を震わせた。
大海は杉浦の身体を抱きしめた。
もっと出せばいい。言えばいい。
「俺だったら、もっと、永瀬にいいトス出せる……もっと気持ちよく打たせられる……そんな事、思っちゃいけないのに……」
「思ってていい…俺だっていつも思ってる。なんでって…。杉浦だったらこうじゃないって…いつも」
杉浦が大海の服を掴んで静かに涙を溢し始めた。
「したいのに……」
大海は杉浦の背を撫でる。
当たり前だ。そう思わない方がおかしいのだ。
「いくらでも言っていいんだ。俺には隠さなくていいから。…俺お前みたいに難しい事考えないけど、それでもお前の為に全部なんでもしてやりたいと思う。全部ぶつけて欲しいと思ってる。……なぁ、また今度練習後にでもアタック練習しようぜ?お前のトスがやっぱり気持ちいいんだ」
「………する」
杉浦が頷くのに大海は顔が笑う。
「永瀬、どうするの…?」
杉浦が涙で濡れた顔で大海を見た。泣いた顔も綺麗って…と溜息をつきたくなる。
「何が?」
「折角逃げ道作っておいたのに」
「それの意味がわかんねぇんだよな。なんで?俺は杉浦好きだ。それだけ。お前は?」
「だから!そんな簡単に!」
「バレーの時も言ったけど。好きか嫌いかじゃないの?俺は杉浦が好きだからぶつけられるのも嬉しいし」
「……こんなぐずぐずを?」
「全然ぐずぐずじゃないだろ」
大海は杉浦に軽くキスした。
「う~、慣れない…」
どうしても照れが入ってしまって決まらない。
そう溢したら杉浦がくっと笑った。
テーマ : 自作BL小説
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