side 悠
インターハイの地区予選が始まる。
レギュラー、スタメン、エースアタッカーは勿論永瀬だ。
驚いたのは悠もユニフォームを貰ってベンチ入りする事になった事だ。
選手として役に立たないのに選手としての登録。
それに誰も異議を出さないのに悠は顔を俯けた。
選手として役に立たない。それなのに…。
吉村がつんと悠を腕で突く。
「杉浦入らなきゃこんな風にならなかったんだから自信もっていいよ」
「…ありがとう」
「そういう事だ。3年にとっては最後だ。少しでも長く立っていたいと思えるようになったのも全部杉浦のおかげだ。そして永瀬のこれからを考えればがんばらないとな」
誰の目にも永瀬が突出しているのは分かる事だ。
対戦校も去年の県一番のアタッカーはここにいたかと驚きを見せるはずだ。
そりゃそうだ。普通に考えて特待で強豪校にいったと思うだろう。それが進学校でバレーの弱い学校にいるのだから。
「うしっ!最後の練習仕上げだっ」
「っす!!」
声が揃う。
駅までの帰り道。毎日の事だけれど、永瀬と一緒に歩くこの時間が悠は好きだ。
朝も朝練で生徒の数は少ないし、帰りも生徒の数は少ない。
永瀬にはいいから、と最初は断っていたけれど今はもうそれが普通になっている。
遠回りになるのにわざわざ毎日行きも帰りだ。
土日も部活があってなかなか二人きりなんてなれるはずなく、キスだってままならない。
そう溢したのが永瀬だけれど、その永瀬は全然今は部活に、試合に夢中になっているみたいだ。
それは分かるけど。
物足りない。
2週連続で互いの家に泊まったあとの一人が妙に寂しく感じた。
永瀬はなんとも思ってないのだろうか…?
これからインターハイの予選だと言うのにこんな事を思っている方がおかしいのだろうか…?
日は長くてまだ仄かに明るい。せめて冬だったらもう暗くなっているだろうに。そうしたらもう少し近づいてもいいと思う。
微妙な距離。
はぁ、と小さく嘆息して永瀬を見たら永瀬も悠を見ていた。
「……自由になんねぇな」
そう言って永瀬がはぁ、と大きく溜息を吐き出している。
と思ったらきょろりと回りを見渡して悠に肩を組んできた。
そのタイミングで耳に永瀬が素早くキスしてきた。
「これで我慢するっ」
永瀬がむっと唇を引き結ぶ。
可愛い奴。
悠は髪をかきあげて永瀬を見上げた。
「足りない」
「う……だめだって」
永瀬の顔が真っ赤になってる。
「………仕方ないけどね」
悠が諦めたように言えばほうっと永瀬が息を吐き出した。
「お前エロい」
「は?どこが?」
「目とか、口とか、仕草とか」
「………きっと誰もそんな事思わないと思うけど?」
「いや、絶対」
永瀬が言い切った。
「そんな事思うの永瀬だけだと思うけど」
永瀬がそう思うのならば別にいい事だ。
駅で別れて電車に乗る。
永瀬はキスはするけれどそれ以上は考えていないのだろうか?
そんな事考えてる自分もどうかとは思うけれど。
だって普通の男子高校生なら考えるはず。
エロいっていう位だし、悠の部屋に泊まった日の朝もキスで反応していたし考えていないわけではないのだろうけれど。
だから今はまずインターハイ予選だ、と自分に言い聞かせる。
一応悠だって男子高校生なのだから興味ないわけじゃない。
ただ今まで誰かとなんか考えた事もなくて、まさか永瀬となんか思ってもいなかった事だ。
どうしたって悠が抱かれる側だろうけれど。
永瀬の大きな手にいつも安心する。
永瀬は悠が不安がっている時考えもしないでよく触ってくれる。
目が見えなくている時もちゃんといるからといわんばかりに手をにぎったり、もしくは精神的に不安なときも背中を撫でてくれたり、ぽんと叩いてくれたりするのだ。
きっと考えての事じゃないのだろうけれど、どれだけそれに安心するか。
きっと永瀬は分かってない。
今だって悠の気持ちを察したように耳にキスを掠めた。
本能?
ふっと思わず顔を染めて笑いを浮べてしまった。
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