流れは膠着状態。
1点を争う攻防になっていた。抜け出すのはどっちか。
応援もベンチも固唾を飲み込んでいた。
そして選手達も。
苛立ったら負けだ。
試合に全神経を集中させる。
声を出して気合を入れる。
それは両チーム共同じで、力が均衡している今は声の出方も同じ位。
これが流れがなくなると途端に声は出なくなり点数に差が出ていくのだ。
心臓はずっとどくどくと脈打っている。
来い。来るな。
どっちも本当の気持ち。
キャプテンのサーブ。
相手のエースが飛んだのに反応して大海とセッター渡辺がブロックで飛んだ。
しかし渡辺の上を抜かれてスパイクが決まる。
「先輩っ!?」
セッター渡辺が着地した時に膝をついていたのに皆集まった。すかさずキャプテンがタイムをとる。
「どうしたっ!?」
渡辺の足が痙攣して震えていた。
「攣って痙攣してるだけだ。捻ったとかじゃないけど」
大海と青山で肩を貸してベンチに戻す。
控えのセッターはいない。杉浦だけだ。
大海と青山は顔を合わせた。
「杉浦、交代だ」
「でもっ!!」
杉浦が頭を振った。
「杉浦。行って来いよ」
渡辺が顔を歪め、スプレーで足を冷却しながら言った。
「行って来い。本当ならお前が正セッターなんだ。レシーブしなくていい。何しなくていい。トスだけあげろ。それだけでも十分なはずだ。もともとここまで勝ち上がってきたのが奇跡なようなもんだ。…俺達にとったらな」
渡辺が笑った。
「…そういう事だ。一緒にやろうぜ?」
青山の言葉に杉浦が俯いた。
「レシーブは任せろ。いつものように綺麗にあげてやっから」
吉村も笑った。
「ボール反れても杉浦は動かなくていいから。全部フォローはこっちでする」
他のアタッカーも杉浦の背をぽんと叩く。
どうしようという顔で杉浦が大海を見た。
大海は何も言わないでただ小さく頷いた。
「渡辺は休んでろ。すみません、選手交代」
青山が審判に手を上げて選手交代を告げに言った。
「永瀬…」
大海は動こうとしない杉浦の眼鏡を外した。
「髪は?」
「結ぶ」
杉浦が髪を結わえる。
「お前そうしてるとこ見るの好きだ」
小さく杉浦の耳に囁く。
観客も何があったかとざわついているし会場全体が落ち着かないので囁く声なんて誰にも聞こえない。
「…そういう事今言う事じゃないと思うけど?」
「そうだけど」
くっと大海は笑った。
「試合でお前と出られるのが嬉しい。何も気にするな、いつも通りな?いつもの様にお前はセッターの位置で待って上げる。それでいいんだから」
杉浦が頷いた。けれどその顔を見て大海は眉を顰める。
「……杉浦と試合に出られるのは嬉しいけど…微妙…」
「何が?」
「ぜって~お前騒がれるもん…」
見なくても分かる事だ。
「…だから、今大事なのそこじゃないと思うけど?」
「そうだけど。………見せてやれ。お前のトス。そして全部俺が決めてやる」
杉浦がこくりと大海を見て頷いた。
コートに戻る。
皆が杉浦に声をかけた。動かなくていいと。トスをあげるだけでいいと。皆の意識が一つになっている。
誰もが杉浦の負担を軽減しようと思っている。
試合再開のホイッスル。
相手チームはまだ落ち着かないらしい。チャンスはここだ。
相手のサーブ。
吉村が綺麗にそれをセッターの杉浦に返した。
杉浦が出したサインはオープン速攻。
杉浦の音の出ない綺麗なトスが来る。
大海のスパイクが相手コートに突き刺さった。
試合でもやっぱり打ちやすい。面白いように大海のここという所に杉浦のトスが飛んでくる。
大海は余裕を持って相手コートを見て、人のいない穴を見る余裕さえある。
こんなにタイミングがいいと余裕が生まれるのか。
大きく反れたボールはチームメイトがフォローにまわる。
全員で一つのボールに夢中になっていた。
落としちゃいけない。綺麗に杉浦にあげないと。
その意識が一つ一つのプレイを皆が丁寧にこなしていた。
レシーブが綺麗にセッターに上がる。
杉浦が片手を上げながらボールの下に入り、指が反るようなトスを上げる。
相手のチームもそれに釘付けになっている。
きっと今この会場で試合を見ている誰もが杉浦に見惚れているはずだ。
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