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太陽と月の欠片 大会5

side 悠



 試合に出てる…。
 嘘のようだ。
 悠は綺麗に高く上がったボールの下に入って構える。
 バックトス。
 レフトには永瀬だ。
 どす、と相手コートに突き刺さる音がする。
 サーブから相手の攻撃、悠の目ではついていけない。
 セッターの位置で立っているしかない。フォローにも回れない。ツーでのトスもボールが反れれば悠の目ではなかなか難しい。
 「任せろ!」
 吉村の声。アンダーレシーブでトスを上げる。
 ラリーが続く。
 ブロード、速攻。
 ぼやけた視界。
 それなのにコートに立っている。
 永瀬と同じ場所。
 夢のようだ。
 一本決まる毎に皆が悠に駆け寄る。
 皆が一本目を丁寧に高く上げてくれる。
 レシーブでは足を引っ張る悠の為に一人一人の守備範囲が広くなっているのに、それのカバーに広いコートを走りまわる。
 吉村の声など右から聞こえたかと思ったら左に移動してる。
 キャプテンの指示の声が飛ぶ。
 永瀬のトスをよこせと呼ぶ声が聞こえる。
 上を向いたときの体育館の電気が眩しい。
 まるでスポットライトのように。
 いくらトスがよくてもバレーは拾えなければ勝てない競技だ。
 レシーブを受けるのが困難な悠では足を引っ張ることが分かっているのにそれでも選手登録してくれたキャプテン達と、そして今ここで、コート上で必死にフォローしてくれるチームメイト。
 永瀬がいなかったら味わえなかった事だ。
 コート上に立っている事に歓喜している。
 そしてフォローに回れない自分には皆に申し訳ないという気持ちが浮かぶ。
 それでもやはり嬉しいが上回ってしまう事に申し訳なくて。
 ぐるぐるした気持ちとは反対に、悠の感覚は鋭敏になっていた。
 視界はよくない。
 それなのにセッターに上がってくるトスを待ったボールはよく見えた。
 アタッカーの動きも。
 相手チームの動きも。
 永瀬の動きなんて合図を出さなくたって分かってしまう位だった。
 見えているんじゃない、感じているんだ。
 楽しい。
 このままこの時間が続いて欲しい。
 夢のような時間だ。
 周りの景色がスローモーションの様にゆっくりと感じられる。
 ボールがゆっくり悠目掛けて飛んでくる。
 構えてトスをあげるのも、自分でホールディングしてるのではないかと思う位ゆっくりに感じてしまう。
 きっと実際はそうじゃないのかもしれない。

 永瀬。
 オープン。
 レフト。
 速攻。
 バックアタック。
 全部決めてやるといった言葉通りに永瀬のスパイクが相手コートに次々と突き刺さる。
 その度に永瀬が駆け寄り悠の頭を撫でていく。
 他のメンバーも抱きつく。
 いつの間にか膠着していたゲームがあっという間に点数が広がっていった。
 4セット目を手に入れた。
 「このまま勢いで行くぞ」
 青山の檄に答えてそのまま5セット目に。
 5セット目は15点だけなのであっという間に勝負が決まってしまう。
 重なっていく点数。
 嬉しいけれど終わりたくない。
 このままずっとこうしていたい。
 悠の複雑な胸の内だ。

 「杉浦っ!」
 永瀬の声。トスを上げる。
 もう誰も永瀬を止められない。
 悠のトスに永瀬が応えてくれる。
 永瀬のおかげだ。
 もう一度コートに、試合に立てるだなんて思ってもみなかった。
 8点目を取ったところでチェンジコート。
 「っし!このままいくぞっ!」
 皆が拳を合わせる。
 永瀬がずっと悠を見て満足そうにしている。
 皆にも笑顔が浮かんでいる。
 ありがとう。
 皆に、永瀬に。

 「あと1点!」
 「っし!!」
 「吉村~~~っ」
 「任せろっ」
 声が入り乱れる。
 「杉浦っ!」
 永瀬の声。
 オープンに。
 一番綺麗なトスを。
 一番打ちやすいトスを。
 一番気持ちいいように打てるトスを。
 「永瀬っっ!!」
 「決めろっ」
 トスを上げた悠の視界に高く舞い上がった永瀬の身体がライトに照らされはっきり見えた。
 反った身体から腕が振り下ろされ、体重をかけた強烈なスパイクが打ち落とされた。
 「杉浦っ」
 長いホイッスルの音が聞こえた時悠は永瀬に抱きしめられていた。
 そのあと全員ともみくちゃになって悠は抱き合った。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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