「あざー………したっ」
相手チームとの挨拶を終えて自分達のベンチに戻ってくると杉浦が皆に深く頭を下げた。
伏せた杉浦の顔が歪んでいる。
大海は自分のタオルを杉浦の頭に被せてやって杉浦の頭を肩に抱きかかえた。
「よかったな」
こくりと杉浦がタオルの下で頷いている。
皆も顔が汗と涙で潤んでいた。
勝利も嬉しかったけれど、それだけじゃなかった。
誰もが杉浦の事を気にかけていたはずだ。
「さ、ここは引き上げるぞ」
青山の言葉に皆が荷物を纏める。
大海達の試合は終わったがこの後も試合が行われるのでさっさと避けなければならないのだ。
控えのロッカールームに向かう時もずっと大海は杉浦の頭をタオルの下に隠して肩に抱きかかえたままだった。杉浦もそのタオルで自分の顔を覆っている。きっとまだ涙が止まらないんだろう。
よかった。
一言で言えばそれだった。
綺麗なトスだった。
全部が打ちやすくて完璧。
「………永瀬?」
タオルのしたからくぐもった声が聞こえた。
「んん?」
「………お前、足、痛めてないか?」
「…………」
大海は一瞬どうしようかと悩んだ。
痛めてはいる。
試合中に少しばかり捻った。
「……痛めてるな」
大海が黙っていると杉浦がそう言ってはぁ、と大海の腕の下、タオルの中で溜息を漏らした。
「……少しだけな」
大海は仕方なく吐露する。
「あとテーピングしてやる」
「ああ」
大海が頷いた。
控えのロッカールームに戻ると杉浦はやっとタオルを外して顔を出し、すぐに渡辺の足を見た。
「大丈夫だ」
「そうみたいですね…よかった。つぎ永瀬」
「永瀬!?」
大海がソックスを脱ぐとげっ!と皆が声を揃えた。
思ったより腫れていたのに大海は自分でも驚いた。
「あれ?」
「あれ、じゃないだろ」
杉浦が呆れた声を出した。
「これ一応病院行った方いいかも。永瀬連れて病院行ってきます」
「……だな。杉浦頼む」
青山が頷いた。
「え?いいっすよ。湿布でもしてテーピングすりゃ…」
「永瀬」
杉浦の声が怒っていたのに思わず大海は黙る。
「杉浦、ちゃんと医者の話聞いてきてくれ」
青山の言葉に杉浦が頷いている。
先生が病院まで連れて行ってくれるというので杉浦と一緒に病院に行く事にする。先生が車を持ってくると言っていなくなったので皆で輪になって反省会だ。
「杉浦、今日はどうだった?」
青山がニコニコしながら杉浦に聞いてきた。
「…楽しかった。嬉しかった。……足酷かった渡辺さんとフォローで皆大変な思いしたと思うけど。俺……」
「俺達も嬉しかった!」
皆でやいやい騒ぐ。これも勝ったからだ。
「一番生き生きしてたのは旦那だけどな」
「当然だろうねぇ」
吉村がげしゃげしゃ笑っている。
「もう目閉じててでもコンビ出来そうな域だもんな」
揶揄されるのももう慣れたものだ。
荷物を持って皆で外に出て杉浦と大海だけ先生の車に乗せてもらう。
「じゃ杉浦、大海だけで危ないからちゃんと聞いてきて」
車に乗り込んだ二人に青山が窓の外から言ってきた。
「はい」
「危ないってなんだよ、ソレ」
大海は青山の言葉にむっとする。
「だってお前大丈夫でしたとか言って絶対無理するだろう。だめだ。じゃあ明日な。ああ、杉浦はあと大海の具合をメールか電話で知らせてくれ」
「はい」
「……どんだけ俺信用ねぇんだ?」
皆が笑う。
「え?」
大海は医者に聞き返した。
「安静。2週間」
杉浦と大海は顔を合わせた。
「でも試合…」
「……捻挫は癖になる。きちんと治さないと故障の原因にもなる。この試合で最後だというのならテーピングやらで出てもまぁ構わないが、もし将来を見据えているのならば無理は勧められない」
「……分かりました」
杉浦が答えていた。
「湿布を出しておこう」
大海の足は包帯で巻かれた。
足をつけないほど痛いわけではないけれど。
治療を終えて廊下に出ると杉浦が青山に電話しているらしく事情を説明していた。
「…なんだって?」
杉浦が電話を切ったのでキャプテンがどういったのかと心配になって聞いてみる。
「分かんない。そうか、って言っただけ」
「…俺、試合出る」
杉浦が眉間に皺を寄せて黙った。
「出たい、のは分かる、けど……」
杉浦がそう呟いていた。
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