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太陽と月の欠片 大会7

 その時大海の携帯が鳴った。
 「ん?ウチからだ。もしもし…」
 大海が電話に出ると母親からで祖母が具合が悪くなったとかでこれから行ってくるという事だった。遠いので泊りがけになる。
 「ああ、いいよ。一人でも大丈夫だって」
 「永瀬、ウチ来る?」
 隣で話を聞いていた杉浦が声をかけてきた。
 「え?ああ、ああと…今杉浦一緒なんだけど杉浦んちに来るかって、ああ、うん…」
 大海が母親に話してる間に杉浦が自分の母親にメールしてる。
 「いいって」
 杉浦が頷いたのに大海が電話で母親に伝えてそのまま大海は杉浦の家まで先生に送って貰う事になった。
 「ありがとうございました」
 「ああ、無理しないようにな。明日もじゃ迎えにくるから」
 「はい、すんません」
 杉浦のお母さんは仕事でまだ帰って来ていなくて、杉浦が鍵を開けて家の中に入る。
 なんとなく無言で杉浦の部屋に行くと大海は荷物を放るように置き、杉浦を抱きしめた。
 そのまま唇を貪るように重ねる。
 試合の時の思いをずっと引きずっていた。
 杉浦も同じらしく杉浦の腕が大海の背に回っている。
 ずっとキスも出来なくて、その分の思いも重なっている。
 今日の、一緒にコートに立てたという興奮も気分を増長させていた。
 何度も何度も。
 今まで足りなかった分を補うように。
 「永、瀬……」
 どれ位そうしていたのか。やっと満足して唇を離せば杉浦の顔が仄かに赤くなっている。
 「嬉しかった。やっぱりお前のトス最高だ」
 「……俺、今日このまま死んでもいいかも、まで思った。だって…この先ありえない事だから…」
 大海は杉浦の頭を撫でてやる。
 「杉浦…渡辺先輩には悪いけど、感謝だ」
 思わず笑ってしまった。
 「あんないい場面で足痙攣なんて…」
 「…確かに」
 杉浦も笑った。そして大海の腕から逃れるように身体を離した。
 「ユニフォーム。洗濯まわして来るから」
 「あ、ああ。悪い」
 バッグには汗かいた時にいつでも着替えられるようにと着替えも一式入っているし換えのユニフォームも入っていた。
 「永瀬は足動かさないでじっとしてて」
 「ああ。分かった」
 「ベッド横になってていいから」
 確かに足は上げてた方が楽なので言葉に甘えて杉浦のベッドに横になった。
 毎日ここで杉浦が寝てるわけで。
 まだ明日も試合があるのにどうしてもこうして杉浦と二人になれば大海の頭は杉浦の事でいっぱいになってしまう。
 祖母は具合を悪くしたけれど入院まではしなくていいという事らしいのでまずは安心だ。
 今日、正直あのまま杉浦と別れるのが嫌だったので感謝したい位だ。
 弟も連れて母親は行ってくると言ったのに感謝する。
 おかげでこうして杉浦といられるのだ。
 しかしやっぱり自分の家より杉浦の部屋の方がずっと落ち着く。
 マンションだとどうしても上の階の足音や隣近辺の物音が聞こえるわけで、杉浦の家のように一軒家でお母さんも日中はいないのに下宿したい位だ。
 そうすりゃいつでも一緒にいられるのに。

 足は落ち着いてきたらいくらか痛みが出てきた。
 きっとあの時は神経が麻痺していたのだろうと思う。
 試合と杉浦のセッターでアドレナリンが出すぎていたのだろう。
 「永瀬、足痛い?」
 戻ってきた杉浦が聞いてきたのに正直に少しは、と答える。
 「あん時は興奮して感覚が麻痺してたんだな」
 「俺も…なんかずっと夢の中いるみたいだった」
 杉浦が床に座るとベッドに背を預けた。
 その黒い頭をぐりぐりと大海が撫でる。
 「がんばったな」
 「……嬉しかった。楽しかった。永瀬が誘ってくれなかったら味わえなかった事だ。ありがとう」
 「俺も楽しかった。やっぱ俺のセッターお前だけだわ。何言わなくてもわかるんだもんよ」
 ふっと杉浦が笑みを浮べる。
 それがすごく満足そうで大海も口が弛んだ。
 「杉浦」
 大海は半身を起こし、杉浦の顔に再び顔を近づけた。
 「足りるか…?」
 いつぞや足りないと言われたキスだ。
 「…足りるわけない」
 まだ全然足りていないらしい杉浦の言葉に大海は何度も何度も確かめるように唇を重ねた。

 
  

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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