3年生はこれで引退。
釈然としないまま大海はまだ母親が帰ってこないために杉浦の家にお邪魔する事になって一緒に帰ってきた。
「3年生達はお前に期待しているからこその決断だ。分かっているだろうけど、腐らないでちゃんと足を治せ」
先生が送ってきてくれて言われた言葉だ。
「…はい。ありがとうございました」
「明日は休みだからってうろうろするなよ」
「はい」
じゃ、と先生が帰って行って杉浦の家に一緒に入る。
杉浦の部屋に入って抱きつくと杉浦が頭を撫でてくれた。
「…お前、いつもあんな気持ちだもんな…」
もどかしかった。
自分が…、と何度も思ってそして杉浦がいつもこんな気持ちなんだと確かめた。
キャプテンの言った言葉がずっと大海の中を巡っている。
そして杉浦の気持ちが。
「俺は別に永瀬ほどじゃない。一度はやめたんだから」
そんなはずはない。昨日の試合を見れば分かる。
「杉浦」
悔しかった。キャプテンの言っている事は頭では分かってる。自分の事を思ってくれた事も。
「永瀬は先輩達の分の思いも背負わないといけなくなったね…」
「いくらでも背負う……。有名になったら世話になったって言わなきゃいけない羽目になったよ」
くすと杉浦が笑った。
「…そうだね。まずは足をちゃんと治さないと。軽い捻挫を甘く見てちゃんと治さないと余計に酷くなるから」
「ああ……。わざわざ試合に負けてまで俺のためにしてくれた事だから…」
杉浦がずっと大海を慰めるようにしてくれる。
「杉浦いてよかった…。これ俺一人でいたら絶対腐ってる。今だって走りに行きたいくらいだ」
「だめ」
「……分かってる」
「永瀬…」
杉浦が背伸びして大海の頬にキスする。それに甘えて杉浦に抱きついた。
「慰めてほしい?」
「…欲しい」
杉浦が大海の頬を包んでキスしてくれた。
翌日は学校は休み。
一日杉浦とただ色々な話をした。
小さい頃の話やバレーの話。
他愛のない話だ。
夕方、杉浦のお母さんが帰ってくる頃を見計らって大海の母親が迎えに来てくれると連絡が入ってちょっと、いや、かなり残念になる。
「あ~あ……家帰るのやだな…」
思わず愚痴る。
「……仕方ない事だけどね」
杉浦はいたってあっさりに見えてしまう。
「杉浦…冷たい…」
泣くまねをすると頭をコツと叩かれた。
大海の母親が迎えに来てくれて、母親同士も挨拶して大海は車に乗り込んだ。
「足、無理するな」
「分かってる。じゃ明日な。すみません、お世話になりました」
大海が杉浦の母親に挨拶して、またいつでも来ていいからと笑顔で言われればちょっと後ろめたい。
「家にもまた来てね。うるさいけど」
「ウチは落ち着かねぇからやだ」
助手席に乗った大海が言えば母親に叩かれる。
「また来てね?」
後ろから弟まで杉浦に顔赤くして言ってるのにやっぱり杉浦の家の方がいいと大海は頭が痛くなってきた。
衣替えになってすでに部活には3年生が顔を出さなくなった。
大海の足はちゃんと医者にももういいと許可が下りて普通に部活をするようになっていて大会前と変わらぬ練習を繰り返す。。
そのうちに中間考査。
試験の前は部活がなくなって早い時間に家に帰る事になる。
「うち寄るか?勉強する?」
大海は杉浦を誘った。
「……いいのか?」
「もちろん」
杉浦が伺うのに大海が頷いた。
杉浦と勉強するから、と自分の部屋に入って真面目にノートを出す。
テーブルがなかったので小さいものを母親に用意してもらった。
そこに頭を突きつけるようにしてノートと教科書を広げる。
「目、小さい字も見えにくいんだろ?大丈夫か?」
「まぁ、どうにか…。視界が悪くならないように願うしかないけど…。なぁ、ここ、数Ⅰのこれ、黒板見えづらかった日でイマイチわかんないんだけど…」
「あ?これか?方式当てはめて…」
杉浦の分からないは字が見えなかったりした時の事位であとは全然分かっているらしい。
「永瀬は余裕みたいだね?」
「ん?まぁ、多分…。頭自体は悪くない、と思う。でも吉村にはバカって言われるけど」
杉浦がぷっと吹き出す。その唇が目に入る。
「杉浦…」
二人きりになればキスしたくなる。
それ以上の事も。
一度一緒にしたのは鮮明に記憶に残っていて、ここ最近の大海のおかずはアノ時の杉浦だった。
声や手を思い出しながら。
それを思い出しかけるとマズイ事態になってくるので無理に記憶から追い払うように大海は頭を振った。
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