side 悠
「もしもし」
永瀬が電話をくれたのに悠は躊躇しながらもすぐに出る。
中途半端だ。
永瀬の事を考えれば離れるべきなのだろうにどうしても出来ない。
その微妙な悠の気持ちの揺れを永瀬も分かっている。
分かっていても永瀬は何も言わないのだ。
それがまた悠を揺さぶる。
『病院は?どうだった?』
「かわらず。別に前より悪くはなってなかったみたいだ」
『ならよかった』
永瀬の声が本当にそう思っているのが分かって言葉が詰まってしまう。
もう永瀬は部活を終わって家に着いたのだろう。
会わない日がなかった位で会いたい、と思ってしまう。
なんで毎日顔を合わせているのに、一日会わないだけでこんなに心細く思えてしまうのか。
悠の隣を冷たい風が吹き抜けているような気がしてならない。
ここ最近はずっと永瀬も触れてもきていない。
それが寂しい。
そんな風に思うなんてダメだと思いながらどうしても永瀬を求めている。
こんな一日会わないだけで…。
会いたい…。
言ってしまいたい。
こんなに本当は永瀬にいて欲しいと思っていると。
違うんだと。
心臓が苦しい。
『杉浦?』
「…なに?」
『いや、ノートちゃんととったから』
「ありがとう。明日貸して」
『当然』
何でもない事なのに。
悠は泣きたくなってくる。
何で永瀬はわざと悠が拒絶を見せているのにも変わらないのか…。
「なんで…?」
『ん?何が?』
永瀬の声。
悠はぎゅっと携帯を耳に近づけた。
もっと話をして欲しい。会えなかった分声が聞きたい。
なんで永瀬は変わらないでいてくれるのか。
「…なんでもない。じゃ、明日」
もっと声を聞いていたい気持ちを抑えて悠は電話を切るべくそう切り出す。
『ああ、明日な』
永瀬もそれをすぐに察知して返してくれるけれど、違うんだ、と本当は言いたい。
ツーツーと切れた電話。
悠は顔を覆った。
「…おはよう」
永瀬はやっぱり駅まで来てくれていた。
「っす」
顔を見られたのにほっとする。
永瀬に顔を背けられたらと考えると心が苦しい。
自分から遠ざけようとしている事なのにそれが中途半端なのだ。
だって本当はこんなに永瀬の事ばかりを考えているのに。
どうしよう。
昨日一日会わなかったからかいつもよりも顔が見られない。
「……なんか毎日いたのに昨日、いなくて…変な感じだった」
照れたように笑う永瀬に悠は自分の心臓を手で押さえた。
「杉浦?どうかしたかっ!?」
すぐに永瀬が悠の肩を掴んだのにさらに心臓が苦しくなる。
やっぱり、だめだ…。
「永瀬……ごめん…」
「な、にが…?」
悠は永瀬の胸の辺りの服を掴んだ。
離れるなんて考えられない。
苦しい。
離すなんて無理だ。
「………俺…」
「聞かないっ!」
永瀬が自分の耳を塞いだ。
「え?」
悠はきょとんとして眉間に皺を寄せて自分の耳を塞いでいる永瀬を見た。
あ……。
もしかして、ずっと悠の態度が変だったから、永瀬は誤解してる…?
永瀬の顔が難しい顔で悠の言葉を拒否しようとしている態度に思わずくっと笑いが漏れた。
そしてさらに声をたてて悠は笑った。
「杉浦…?」
笑い出した悠に今度は永瀬がきょとんとした。
そしてとんとんと悠は永瀬の胸を叩く。
「永瀬……ごめん…違う」
お腹が痛い。
悠は自分の事しか考えてなかった。
「ちゃんと、答え言うから。でも今はちょっと……そのうちに」
「う………その、杉浦…?」
「な、に?」
くすくすと笑いは止まらない。
その悠を永瀬が伺う様に見ている。
「その……嫌、とか、そういうんじゃ、ない…?」
「さぁ?」
にっこりと笑ってやる。
「う…」
永瀬が言葉を詰まらせていた。
しょげた永瀬にまた笑いが浮かんできた。
「永瀬」
悠は永瀬の腕にしがみついた。
「す、杉浦っ?」
「部活、行こう?」
「あ、ああ」
永瀬のずっと垂れ下がったままだった尻尾が喜びにぷるぷると振れているように見えた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学