「お邪魔します…」
ちょっと緊張してしまう。
部活を終わってそのまま杉浦と一緒に杉浦の家に帰ってきた。
すでに夏休みの一週間は大海の家に来る事になっていたし、杉浦のお母さんも是非来てとの事で、いいのかな~、と思いながらも言葉に甘える。
だって息子さんによからぬ思いを抱いてます、なんて言えないし。
なにより自由に抱きしめる事も出来ないので甘えるしかないけれど。
「なんか飲み物…」
「いい。杉浦」
大海は杉浦の腕を掴んでもう何度も足を入れている二階の杉浦の部屋に向かう。
「永瀬?」
部屋を勝手に開けて中に入りドアを閉めると同時に杉浦を力を込めて抱きしめた。
「杉浦…」
「な、がせ…」
杉浦の声が掠れたのに大海はぐっとさらに力を強める。
「嫌、じゃない?」
大海の声も掠れた。怖い、と思う。心臓がどきどきしてる。
家に、と誘ってくれる位だから大丈夫だとは思うけれど確信なんて持てない。
杉浦は小さくこくりと頷く。
「永瀬…」
でも杉浦が大海の腕から逃れるように腕で大海の胸を押してきた。
「杉浦…?」
やっぱり嫌なのか…?
思わず大海は不安になってしまう。
「違う」
その大海の表情にすぐ気付いたのか杉浦が首を振った。
「まず座って」
杉浦の言葉に大人しく従ってテーブルの前に大海は大きな身体を縮ませるように小さく正座した。
いや、気持ち的にだ。どうしたって身体がでかいのに変わりはないから。
その大海の隣に杉浦が座ったので大海は顔が向かい合うように座りなおした。
答え、だ。きっと。
大海は肩を窄ませて向かいの杉浦を見た。
目を閉じたいけれど杉浦の黒い瞳が大海を見ているのに大海は目を離せない。
心臓は大きくどくどくと脈打っている。
「まず、昨日の朝まではごめん。…気付いてたでしょ?」
「……まぁ」
「うん。勝手に俺が永瀬から離れた方がいいかな、と思ったんだ」
「な、んで…?」
「でもやっぱりダメみたいなんだけど」
大海の質問には答えないで杉浦がけろりと言った言葉に大海は目を見張った。
「ええと…?」
「前にも言ったけど永瀬はきっと全日本に行く。その横に俺では立てない」
「そんな事っ!…」
杉浦が大海の言葉を手で止めた。
「目もそう。永瀬に迷惑ばかりかけて」
「杉浦っ!だから!それは……」
また手で制される。
「俺では永瀬の力にもなれないし、女でもないからおおっぴらに隣にも立てない。だから…」
杉浦が顔を俯けた。
「そう思ってわざと、あんな態度をしてた。それなのに永瀬は変わらないし、……俺もダメなんだ。…一昨日、学校休んで一日会わなかっただけ。それだけなのにもうダメなんだ…どうしたって…永瀬を探している、んだ…。去年、一回だけ、県大会で見ただけで惹かれた。……俺だったら…って思ってた。スパイク見てるだけでも気持ちよくて…でも目が酷くなって出来ないって…」
杉浦の肩が震えてた。
「近くの高校じゃ知ってる奴ら、同中の奴らがいる。だからわざわざ離れた進学校選んで来たのに、まさかそこに永瀬がいるとは思ってなかった。……悔しかった……」
ぱたっと杉浦の膝に雫が垂れた。
抱きしめたい、けど、いいのだろうか…?
「試合、出た時…。あのまま終わりたくなかった…。ずっとあのままでいたかった。永瀬が俺のトス上げたの打つとこ見えた。高くジャンプして身体反らせて思い切り打ててるとこ…体育館のライトに照らされて浮かんで見えた、んだ…」
「ああ…気持ちよかった。…俺もあのまましてたいって思った。杉浦が隣にいた。嬉しかった…興奮してた。どうだすごいだろうって言いたかった。俺がじゃないぞ?杉浦がだ。だからきっと足痛いのもどっかいってたんだ。あの時のスパイクは全部杉浦が出したものだから」
「……俺も気持ちよかった……たった一度永瀬を見ただけだったのに、ずっと気になってた。まさか高校一緒になって…バレーまたするなんて思ってもなかったし、まさか永瀬にトス出来る日が来ると思ってなかった。しかも試合まで…」
静かに落ちる杉浦の涙に大海は苦しくなって拒絶されないかな?と思いつつ杉浦の顔に手を伸ばして眼鏡を取ってからぐいと杉浦を引っ張り黒い頭を胸に抱き寄せた。
「一人で泣くな…」
杉浦は静かに身体を震わせていた。
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