思わずどうしたって顔は緩みっ放しだ。
「…顔しまりないけど?」
「うん。仕方ないよね」
大海は杉浦に注意を受けるけれどどうしたって口角は上がってしまう。
諦めたように杉浦にため息を吐かれてしまうけれど全然痛くもかゆくもない。
「そういえばうちの兄貴が夏休み中にこっちに戻ってくるって言ってた。全日本の選手連れてくるって」
「え!?」
大海は驚きで声を上げた。
「永瀬を見たいって言ってたよ。それとちょっとうちのチームの練習も見てくれるって」
「うおっ!それってすごくね!?」
「まぁね。家族割で特別だけどね」
「うっし!!」
大海はガッツポーズが出る。
「夏休み、ちょー楽しみだ!だって杉浦ともいられるし!」
「……ん」
杉浦もそこは嬉しそうにはにかむ。
やばい。絶対。
でも、杉浦はもしかしていい、のか?
さっきもしていい、とか言ってたし。
だめだ。妄想したら止まらなくなりそうだ。
今日は我慢。
なにしろキスだってなんだって杉浦が初めてなわけで、それ以上なんて上手く出来るはずなどないのだから。
せっかく返事をもらったのに下手すぎて嫌われたらたまったもんじゃない。
下手に手を出したら絶対雪崩れていきそうだからここひたすら我慢だ。
「………おあずけくらってる犬みたい」
「……………杉浦…」
がくりと大海は肩を落とす。まさしく気分はそれだけど、それを杉浦が言うのはどうかと思うのだが。
くすくすと楽しそうに笑っている杉浦を見ればまぁ、いっかと思えてくるから重症だろう。
犬みたいだ、とは大海はよく言われることだけれど。
「やっぱお前も犬みたいって思うんだ?」
「まぁ。分かりやすいよね。見えないけど、尻尾見えそうだもの」
平然と杉浦に肯定されればはぁと思わず頭を抱えてしまう。
「…いいけどね」
それでも杉浦が嫌だというわけじゃなければ。
「可愛いけど?」
何が不満?といわんばかりの杉浦だ。
「いえ、杉浦がそれでいいならいくらでも俺は犬でいいです」
「…別に犬とは思ってないし」
それはそうだろうけど。
犬だろうがなんだろうが大海にとってはどうでもいいことだ。
杉浦が笑っていてくれればそれでいい事だ。
「すっかり元通りね」
「…おかげさまで」
わざとらしく大海はにやにやと笑っている光に返した。
「ん~~~…宙はやっぱり諦めるしかないかなぁ」
「…お前中立って言っただろ」
「言ったよ~」
杉浦はまたプリントの字が小さすぎて見えなくて職員室に拡大して欲しいと先生に頼みに行っていない。いつ帰ってくるかと大海はドアから視線を外さない。
「旦那、本当杉浦大事そうね」
「………まぁ」
そこは素直に頷く。
「ふぅん…。ヤったの?」
「や、や、や…っ」
「あ、まだなのね。だよね。杉浦全然平気そうだし」
大海の顔はきっと茹蛸みたいに真っ赤になっているはず。
「……旦那、初心なのね」
光が呆れたように大海の顔を見ていた。
「おま、え、はあるの…?」
大海は小さく小さく顔を光に近づけて聞いてみる。
「あるよ。男も女も」
「…………信じられない」
大海はすげぇと思わず光に見入ってしまう。
「旦那」
光が大海の肩を組んで耳にささやいた。
「初めてん時はちゃんと解してやれよ?じゃないと切れて流血沙汰になるから。ローションなんか使うといい。女と違って濡れないからな。自分本位にするなよ?ちゃんとイかせてやれ」
か~っと大海の頭にますます血が上ってくる。
「ロ、ロ、……どこ…で…?」
「オトナのおもちゃの店で売ってるよ。……永瀬なら背もあるし別に普通に店入っても止められないだろ」
「う…」
「平然と普通に入ってけよ?変な変装とかした方がよっぽど変だからな。ああ、あとゴムは使えよ?中出しするとされたほう後大変だから」
くくっと光が笑う。
「…な、か……………光って、オトナだ……」
大海は光を尊敬の念で見てしまう。
「ば~か。自慢出来る事じゃねぇよ」
いや十分自慢できると思うけど…と思わず思ってしまう。
「何二人で話してたの?」
二人が頭をくっつけて内緒話していた所に杉浦が帰って来て眉間に皺を寄せて首をかしげた。
「な、なんでも…な…」
「杉浦には内緒だな」
真っ赤になって慌ててる大海に笑いをたてる光。
杉浦は二人を見比べて怪訝な顔をした。
テーマ : 自作BL小説
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