「光と何話してたの?」
「…なんでもない」
杉浦がむっとしたように口を噤んだ。
「俺に話せない様な事なんだ?」
「う…あんまり…話せない、かも…。話したら…多分、杉浦困ると思うから」
「困る?」
「そう」
駅までの帰り道、よほど光と話していた内容が気になるらしい。
「……ふぅん」
納得はしてないみたいだけどどうにか杉浦は大海への追求は引っ込めたらしい。
「杉浦…」
部活の時に結んでいる髪と出ている顔が今は眼鏡の下と前髪に隠れている。
「何?」
「…なんでもないです」
キスしたいなぁ、とか触りたいなぁと思っても普通に学校行って部活してたらなかなかそんな機会はやってこない。
だいたいが大海は今までもバレーが中心でそんな事には疎いのだ。
スマートじゃない、と自分でも思ってるけど、杉浦は嫌じゃないんだろうか?
一人でぐるぐるしていると杉浦がじっと大海を見ていた。
「…どうした?」
「ええと…杉浦、本当に、俺の事うざくない?」
「は?」
杉浦がきょとんと黒い目を大きくさせたと思ったら続けて笑い出した。
「何言ってるの?」
口元を押さえながら杉浦が笑ってる。
絶対杉浦は女にも男にももてるはず。
自分なんかでいいのだろうか。
「うざかったら一緒にいないけど?」
「……だな」
「わざわざウチに誘ったり、もしないし?」
「…そっか」
杉浦がくすと笑って大海を見上げた。
それに大海は照れた笑いを浮べた。
「変な事を心配する」
くすくすと杉浦が笑っているのに大海は安心した。
「永瀬、呼んでる」
昼休みに大海は声をかけられてクラスの入り口を見れば宙がいた。
珍しい。しかも杉浦でも光でもなく自分?と大海は首を捻った。
「どうした?」
「ちょっといいか?」
そのまま宙に連れられて人影のない校舎脇に連れて行かれた。
「杉浦の事だけど…」
大海は身構えた。
「永瀬って本気なのか?」
そう問う宙の表情からは宙が何を考えているのかは分からなかった。
けれど目は真剣だ。
「……本気」
大海は真面目に答えた。
すると宙ははぁ、と溜息を吐き出して頷いた。
「…杉浦、もだろ?」
「………それは、ええと……多分?」
大海は杉浦の気持ちは聞いていたけど、まさか言い切る事は出来ない。
「……じゃあいい。永瀬が本気じゃないなら、と思ったけど…。本気なら無駄だろうから」
「?」
「杉浦の目に入ってるのは永瀬だけだろうから」
「…そんな事はないと思うけど」
「いや、そうだろ。それでも永瀬が違うならチャンスはあるかと思ったんだが…」
宙が頭をかく。
「…わり」
「…謝る事じゃないだろう。いい。分かった。時間取らせて悪かった」
「いや」
「ところで、話は変わるけど俺のトスはどうだ?直接聞いた事はなかったけど。杉浦とは比べるなよ。もっと何か注文があればそうするけど?」
「あはは…。杉浦はもう別だから。杉浦以外のセッターだったら宙には何も文句ない。高さも早さもタイミングも、気持ちよく打てる」
そうか、と宙は満足そうな顔をした。
なんだ、可愛いじゃないかと大海は今まであまり話さなかった宙に親近感を覚える。
「なぁ、別に俺お前に嫌われてる、わけではないんだよな?」
「…別にそんな事ないけど?……俺、光と違って人見知りなだけだから」
でかい図体で人見知り。
ぶっと大海は笑った。
「なんだ。俺はまた嫌われてるのかと思ってた。じゃあもっと話しようぜ。他の奴らともな。ウチの部人はいいから」
「ああ、それは思った。前いたとこなんか最悪だったから」
それから宙と色々時間がくるまで話した。
なんだ、全然話しやすいじゃないか。
「…光が懐くの分かった」
「あん?」
「光。あいつ人見知りじゃないけど滅多に内側に人入れないんだけど、永瀬はすんなり入ってるみたいだから」
「そうか?」
「ああ…。器がでかいんだ」
「…そう?…なんか誉められてる?」
「ああ」
宙がくっと笑った。
「…杉浦が、ってのも分かる。…ああ、名前も大海だもんな。でかいわけだ」
「宙の方がでかいだろ?」
その大海の返しにまた宙が笑った。
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