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太陽と月の欠片 夏休み1

side   悠



 「お邪魔します」
 永瀬の家の玄関で靴を脱いだ。今日から1週間永瀬の家で二人きり。
 緊張する。
 


 夏休み。
 ほぼ毎日部活。夏の体育館は本当に熱くてただ立っていても汗が吹き出るようだった。
 部活終わった後に永瀬の家に行って宿題したりもした。
 部活帰りに光、宙、吉村も混じったり。
 普通に。
 たまの部活ない日は永瀬が悠の家に来たり。
 でもそれだけで泊まりはなし。
 
 したのもキス位。
 永瀬は全然そんな事考えていないのだろうか?
 自分はもうとっくにその気持ちは固まっていたけれど、永瀬は考えていないのかも。
 キスはしてくれるけど。
 それだけだ。
 自分の方がおかしいのだろうか?
 男なのに抱かれたい、なんて気色悪い、だろう、とも思うけれど。
 
 好きだ、と言った日だってそうだ。
 永瀬はキスだけでいいといって永瀬に伸ばした悠の手を永瀬は拒んだ。
 自分が欠陥人間であることは分かってる。勿論。
 それでも永瀬は好きだ、と言ってくれるけれど、いつだって心の中は不安だ。
 
 「入って。誰ももういないし」
 永瀬がにかっと笑う。
 人見知りもしない永瀬はいつの間にか宙とも普通に話すようになっていた。
 二人の間で何を話したのか、永瀬は話してくれない。
 光ともそう。
 永瀬はいつでも人を惹きつける。
 自分とは全然違う。
 きっとそれはこれからもそうだろう。
 そしてバレーでだって惹きつけるのだ。
 きっと誰もが目を離せなくなるだろう。
 そんな人の横にいていいのか。
 いつも思ってしまう。
 それでも永瀬は悠の傍にいてくれる。
 いつも。

 いてほしい。
 いたい。

 いつの間にこんなに貪欲になってしまったんだろう。
 去年の県の大会では目を惹かれただけだったはずなのに。
 …それさえも自分にとっては画期的な事だったけれど。
 今まで誰かに目を奪われた事などなかった。
 永瀬だけが悠の目に他の誰とも違うように映った。
 初めてトスを上げたい、と思った。
 それはもう叶わないものだと諦めたはずだったのに、まさかこうしてまたボールに触って部活になんて思ってもみなかった。
 それに試合まで。
 去年よりもずっとひどくなった視界。
 見えなくなるかも、といつも不安は付き纏う。
 それでもあの時の、一緒にコートに立った永瀬の姿は忘れないだろう。

 「どうした?入れよ」
 「え?あ、…うん」
 ぼうっとしていたのに永瀬が声をかけてきたので悠はしんとした部屋に足を入れた。
 「あ、これ、母親に持たされた」
 持たされたのは料理やレトルトで簡単に出来るもの。
 いくらか永瀬が料理が出来ると聞いて持たせられたそれを永瀬に手渡す。
 「お?別によかったのに。でも楽になるか」
 永瀬が覗き込んで笑った。
 「杉浦は?料理とか」
 「出来ない」
 悠は首を振った。
 「だめだろ」
 「…永瀬が食わせてくれる?」
 「そりゃいいけど」
 ぷっと永瀬が笑った。

 もう何処もかしこも悠には眩しく見えてしまう。
 多分分からないけれど他の人よりははっきりと見えてない視力、それでも永瀬は眩しい。
 光って見える。
 どこにいても。
 そんな風に悠が見てるなんて永瀬は知らない。
 
 緊張する。
 心臓が煩い。
 「そういや、うちの兄貴来週来るって」
 緊張を押し隠して口を開いた。
 「まじ?うわっ!すっげ楽しみだ」
 見てるこっちまで楽しくなってきそうな永瀬の顔に思わず悠も笑った。
 
 落ち着かない。
 期待と少しばかりの不安。
 静かな永瀬の家。
 
 「杉浦」
 永瀬が悠の眼鏡に手をかけて外した。
 眼鏡は自分を取り繕う道具だ。
 永瀬の前でもうそれはいらない。
 「…今日も暑い、ね」
 「そうだな…」
 クーラーの効いた家の中。
 それなのにじとりと汗が湧き出てくる。
 緊張して喉も渇いていた。
 「部屋行っとけ。飲み物持ってってやる。喉渇いただろ?」
 悠は小さく頷いた。
 いいと言ったのに駅までわざわざ永瀬が迎えに来てくれた。
 1週間永瀬の家にいるという事は誰にも教えていない。
 吉村あたりに教えたら絶対来そうだ。光と宙も。
 邪魔されたくなかった。
 そう思うのは悠だけだろうか?

 「お前ウチ来るの、吉村とかに言ってないな?」
 「…言ってないよ」
 「うし!」
 永瀬が頷いた。
 「邪魔されちゃ最悪だかんな」
 さらりと永瀬が言う言葉に悠は小さく頷く。
 「……部屋行ってる」
 「おう」
 何となく気恥ずかしい。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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