「あ、でも…」
杉浦はついと上に乗っかっている大海の胸を退けるように押してきた。
でも…?
「……その、汗、かいたし……やっぱり、今は無理」
がくっと大海は力が抜けて杉浦の上に覆いかぶさった。
「う……チョー恥かしいんですけど?」
「そんな、事ない…」
杉浦の手が大海の背中をさすさすと撫でた。
「杉浦……嫌じゃない、よな?」
「………ないよ」
「ならいい。……別に汗かいた位どってことないと思うけど」
思うけど、真昼間からはやっぱりちょっと、とも思う。
どうせ時間はゆっくりあるんだから。
「……夜、はいい?」
杉浦の耳元に問えば小さく杉浦が頷いたのが分かった。
大海は顔をあげ、そして杉浦にキスしてから首筋にも唇を這わせた。
「ぁ……」
小さく声を上げるその声がやばい。
「い、今は、だ、だめだって」
杉浦が慌てたように大海の顔を剥がそうと手で大海の頭を押してきた。
「ちょっとこのままで、いい?今はしないから」
「……いいけど」
くすくすと大海が笑えばほっとしたような杉浦の声。
「……悠」
名前で呼んだら杉浦が驚いた顔をしている。
「な、永瀬っ」
大海の心臓がドクドクと脈打っているその下で同じようになっている杉浦に気付いた。
表情はそんなに変わってないと思っていたけど、杉浦も緊張していたのだろうか…?
ぎゅっと抱きしめてから自分のでかい身体じゃ重いだろうと身体を避けた。
ほっと小さく息を吐き出す杉浦にぷっと吹き出す。
「今日杉浦の布団出さなくていい?」
きっと離れたくない。
「……いい、よ」
なんでもない事のように杉浦が頷いたけど、仄かに耳が赤い。
「………杉浦、やばい~」
横になったままじゃダメだ。大海は杉浦の手を引いて身体を起こした。
「俺、ちょっと離れてる」
「え?」
「ぜってぇ、隣いたら手出しちゃうから」
杉浦を起こしてベッドに座らせ、自分は移動してフローリングに座った。
杉浦は何と答えていいのか分からない様子で、それもいい。
学校ではいつも表情をあまり変えないから新鮮だ。
べたべたしたいけど、我慢きかなくなるのはわかり切っている。
だって歯止めになるような事はなにもないのだ。
部活も学校も親もいないから。
部屋も距離が近いのがマズイかも。
「宿題!宿題しよ!」
進学校なので宿題は多い。そこに救いを求めた。
「……そうだね。何?数学?」
杉浦も頷いて持ってきた荷物をあけている。
「永瀬頭いいから。教えて?」
「杉浦だってよかっただろ?」
「……それ、学年2位に入ってる永瀬に言われたくないけど?」
ちろりと杉浦が大海を見たのに頭をかく。
「…ずるいよね。バレーも全国区で頭もいいなんて」
「ずるいって…」
言われても、どう返していいか困ってしまう。
リビングに移動してノートを広げて宿題をしていれば心は平静になってくる。
とはいってもふとした拍子に口元に目はとられてしまって落ち着かなくなるけど。
杉浦はちゃんと真面目にノート広げて勉強中。
見えないときの杉浦の為に大海はノートの字を心持ち大きく書くようになったし綺麗に見やすいように取るように気をつけるようになっていた。
「あ、ここのノート見せて?わかんないところあったんだ。あとで借りようと思って忘れてた」
ふいに顔を上げた杉浦と視線がぶつかった。
じっと見てたのに気づいただろう。
「ん」
大海がノートを渡せばありがとう、と小さく声がする。
だめだ。全然集中出来ない。
「……永瀬、全然シャーペン動いてない」
杉浦が顔を俯けながら小さく言った。
「仕方ないよ…」
はぁ、と大海は諦めたようにため息を吐き出した。
「俺の事は気にしないでいいから」
こうなってくるとかえって誰かを呼べばよかったかとも思ってしまう。
杉浦と二人きりじゃどうしたって平静がやってこない。
勿論それが嫌なわけじゃないけど。
我慢の利かなくなりそうな自分にまったくもって呆れる。
「…気にしない、なんて無理に決まってる」
ぼそりと杉浦が言ったのに、また煽られる。
杉浦は大海を試しているのだろうか?
いいと言ったりダメといったり、キスしろと言ってくるし、それでいて押し戻そうとするんだから。
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