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熱視線 小夜曲~セレナーデ~6

 「あげてもいい。だが、それは置いといて」 
 あげてもいい??え?置いといて?
 怜は明羅の腕を外した。
 「あとでいくらでもなんでもしてやる。今はそれじゃなくて曲だ!なんだこれは!?」
 怜の大きな声を出したのに明羅はひくっと身体を震わせた。
 「え…と…ダメだった?気に入らない…?」
 「何を言ってる?馬鹿か?…お前は一体何者だ!?」
 何者って…。
 「…それ俺の台詞…だよ」
 「俺の台詞だ。…これは俺の為の曲だ」
 「そうだよ」
 じっと怜の視線と明羅の視線が絡んだ。
 そして怜がはぁ、と大きく溜息を吐き出した。
 「あの、ラフマニ…貰ったから…お礼と…誕生日、だから…」
 「誕生日プレゼントか!?」
 「ええと、うん。献呈…なんちゃって」
 恥かしい。
 でも茶化していっても怜は乗ってくれなくて。

 「ソナタだ。解釈はあれでいいのか?」
 「うん。全部…思ったとおりだった」
 「お前弾け」
 「やだ!!!」
 ピアノの前に座らせようとする怜に明羅は抗った。
 「絶対に弾かないっ。俺が弾いても曲は完成しないんだから!怜さんじゃなきゃダメなんだ」
 「………」
 怜は諦めたように明羅を離した。
 「だめなんだ。俺じゃ完成できないんだ…機械の音でもだめ。俺が欲しいのは怜さんだけなんだ」
 「………すごい告白だ」
 「ちが……いや、違わなく、ない、けど…」
 「あれ、弾き込んで発表してもいいのか?」
 「ええっ!」
 怜は明羅の返事をスルーして曲の事を続けた。
 「俺に献呈って言ったな?じゃ、俺が自由にしていい?」
 「…そりゃ、いいけど…」
 「よし、解釈を教えろ」
 怜は椅子から立ち上がると楽譜を持って明羅の腕を掴んで引きずるように寝室に向かった。
 
 ベッドに明羅はうつ伏せになって怜は胡坐をかいて座って表紙を見ていると、怜が笑みを浮べた。
 「桐生 明羅、か」
 「ん…」
 ピアノソナタと書いた脇に名前も入れておいた。
 「桐生…?」
 「ん…佐和子がお母さん」
 怜の目が大きく見開いた。
 「それはまた…じゃ父親は桐生 博?」
 明羅は頷いた。母親は世界をあちこちリサイタルするピアニスト。父親はベルリンで指揮者だ。

 「そりゃあ、両親留守なのも当たり前だわ」
 怜が納得してたけど納得するのそこ?
 「そりゃお坊ちゃまだ」
 怜が頷いている。
 「で、それはいいけど。曲だ」
 え?両親の話はそれで終了?両親がそうだから明羅もって怜は思わないのか…?
 「いや、ちょっと待て……」
 怜が楽譜を捲ってそして難しい顔になった。
 眉間に深く皺が寄っている。
 そしてじっと明羅を見た。
 「桐生 佐和子の…息子…。まずいな………」
 まずい?
 「……だが、仕方ない、か?」
 何故か怜が一人で唸っている。

 「ま、いいや。で、ここだ…。ここは?さっきはフォルテで弾いた。でもピアニッシモもありだと思うんだが?」
 「ああ…それもいいかも…後ろがかえって強調される」
 「だろ?」
 次々に怜から質問が飛んで来る。
 「でも、いいんだ。怜さんの好きなようにで。だから指示を書かなかった。その時の気分でもいいんだ。二度と同じ演奏をしない、みたいな感じでもいいと思って」
 「………面白い」
 怜がにやりと笑った。
 「うん。怜さんの自由で。だって怜さんの音で俺が違うって思う音がないから」
 「…………どれだけ盲目的なんだ?」
 「違うよ。本当なんだ。自分と違う弾き方してもああ、それもありか、って思うから…」
 怜はぐりぐりと明羅の頭を撫でた。

 「これを貰う」
 怜が楽譜を持った。
 「うん……」
 よかった。気に入ってくれたんだ。
 「……こんなすごいプレゼントを貰ったのは初めてだ」
 「すごいか、どうか…」
 「すごい。これは世に出すべきだ」
 「…出しても弾けるの怜さんだけだよ?……弾くだけなら誰でも出来るだろうけど」
 「いや、誰でもは無理だろう。かなり弾けなきゃ無理に決まってる」 
 「そう?」
 明羅は首を傾げた。
 「……やっぱりお前弾け!」
 「絶対やだ!それこそただ弾けるだけ、だもん」
 怜が明羅を押さえ込むのに明羅が暴れた。
 「絶対弾かない」

 「明羅」
 怜が名を呼んでふざけるのをやめた。
 「さっきのジュ・トゥ・ヴ…」
 その言葉に明羅の心臓が大きくどくりと脈打った。
 
 

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