4 如(YUKI)
い、い、い、一体!敦は何した!?
顔が真っ赤になっているのは分かる。熱いくらいだから。
キスって。
…………ファーストキスが同姓の幼馴染ってどうなのさ?
はぁ、と思い切り如は溜息を吐き出した。
いったい敦は何を考えてるんだ?
好きだ?
そんなの知ってっけど。
意味が違う。
あくまで幼馴染だ!
ずっと小さい頃から弟のように守ってきてやったんだから。
好きの意味が違う!
それなのに敦はそうじゃない?
キスしたい好き?
「…ねぇだろ、って」
勘弁しろ、と如は頭を抱えた。
一体いつから…?
小さい頃からって敦は言ったけど。
如は唇を指で辿った。
そしてかっとして頭を振った。
しばらく部屋には出入り禁止だ。
頭でも冷やせ!
それから敦は部屋に来なくなった。
勿論如が窓の鍵もカーテンも閉めてるから当然だけど。
「どうしたの?敦くんと喧嘩でもしてるの?珍しい」
「……喧嘩じゃないけど、勉強の邪魔してくるから、アイツ」
「ま!今までそんな事気にした事もないくせに。早めに仲直りしときなさいよ」
「…………」
母親の軽い言葉だけど、そんな簡単な事じゃない。第一喧嘩じゃない。
互いに兄弟もいなくて小さいころから一緒にいた。
親同士も仲良くてもうすっかり家族ぐるみの付き合いだ。
どこかに遊びに出かけるのも一緒。旅行も一緒。
学校の学年の行事ではない限り、記憶の中の思い出にはいつも敦がいる。
ほぼ毎日顔を合わせてた相手だ。
それがもう三日も部屋に来てない。
だから!カーテンも閉めてるし、当然なんだけど。
如は役員の仕事の為に早くに家を出る。
もちろん敦と時間は合うはずないし、会うというか見かけるのは登校時の時と教室移動の時、タイミングが合えば、だけ。
その敦が一緒にいる事の多いのが今年の1年生の中で断トツで可愛いと噂の三浦 翔太って子で、断トツでかっこいいと噂の敦と一緒にいる事が多くてすでに二人はもう付き合ってるとかいう話まで沸いていた。
男子校なので、女の子はいないし、そりゃ華がない。
その中で可愛い子を女の子みたいに扱うような男子校ならではのゲーム感覚だろう。
その子が敦といる。
敦よりずっと小さくて目が大きくて確かに可愛い。
登校もいつも一緒だ。
クラスも一緒。
毎朝、二人で並んで登校して来る。
その敦は如に視線も向けない。
何が好き、だ。
何がキスしたい好きだ。
敦は全然平気じゃないか。
窓を叩きもしないし全然来る事もしないのに。
如は朝校門に立ちながら苛立ちを見せ、眉間に皺が寄っていた。
「二宮?どうかしたか?」
「あ、……いやなんでもない」
「…ずっとここの所落ち着かないみたいだな?」
「そんな事ないよ。それより和臣こそ。顔が恐くなってるぞ?」
「……そうかい?」
「かなり」
和臣も眉間の皺は深いし表情は険しい。
その視線の先を辿れば敦とその噂の子が仲良く笑って話しながら登校してくる所だ。
見たくない、と如はふいと視線を反らせた。
「おはようございます」
敦と並んで三浦 翔太くんが小さく声を出して頭をぺこんと下げると通り過ぎようとする。
その隣に敦が立っているのは分かってたけれど如は敦には目を向けない。
「おはよう」
にっこりとその子に微笑んでやれば顔を赤らめてそして如の隣にいる会長の和臣をちらっと翔太くんが見た。
「?」
知り合い?と聞こうとしたら三浦くんが行こう、と敦の袖を引っ張って小走りになって通り過ぎていった。
なんだよ、それ。
あんな事しといて敦は完全に如を無視。
学校では声をかけるな、部屋から出て行け、と言ったのは勿論自分だって分かっている。
分かっているけど、なにがこれから如って呼ぶだ。
ゆきちゃんって呼ばない、だ。
会話だって何一つもないんだから呼びようもないだろうが。
イライラとした気持ちが湧いてくる。
そもそもなんで敦の事でイライラしなきゃないのか。
表情に出さないように気をつけているので表立って気付かれはしないはずだけど。
そっと隣の和臣を見れば敦とあの子の後ろをじっと見ていた。
「和臣?…あの子知り合い?」
「え?ああ、……いや、ちょっとだけ、な」
「ふぅん…」
和臣もポーカーフェイス。何を考えているのかなんて如にも分からなかった。
テーマ : 自作BL小説
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