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副会長はいじっぱり 5

5  敦(ATSUSHI)


 ゆきちゃんはやっぱり全然見てくれない。
 敦は、はぁ、と溜息を吐き出してがしがしと頭をかいた。
 「柏木?どうかした?」
 きょとんと三浦が敦を見ていた。
 「え?ああ…うまくいかねぇな、と思って」
 「……なんか問題?」
 「問題…。……そうだな。大問題だ」
 まったくゆきちゃんの視界の中に入れてもくれないなんて。でも今まで通りの幼馴染なんてもう無理だ。
 「……うまくいかない…。ほんとだね…」
 三浦も小さく呟いている。
 「何?お前もなんか問題か?」
 「え?あ、ううん。俺のはそんな問題ってほどじゃない、から。問題にもならない位だと思う、し」
 はぁ、と二人で溜息を吐き出した。
 「お前ここの学校詳しいみたいだから聞くけど、あの会長ってどうなの?」
 「え?………どう、って…完璧、だよ」
 「完璧~?」
 「そ。頭も全国一位、スポーツも何しても出来るし、家も容姿だって。どれも人より劣るトコなんてないから…」
 そんなヤツがゆきちゃんの隣に立っているんだ。
 「……あの副会長とは?」
 「いいパートナー?かな…多分。よく分かんないけど。でも付き合ってるとかいう噂はずっとあるみたい。二人とも表情出ないから真相は分からないみたいだけど」
 …そんな噂まで。
 そんなんだから同じ学校にしたのに。
 それなのに…。

 隣の家で部屋が目の前にあるのに全然会えてない敦といつでもゆきちゃんの隣に立っている会長とでは雲泥の差がある。
 見てもくれない、話も出来ない、拒否られてる自分。
 それでもゆきちゃんと離れる気なんてさらさらないけど。
 怒っているゆきちゃんは頑固だからほとぼりが治まるまでは大人しくしていないと余計へそ曲げてしまう。
 それでもこんなに部屋に行かない日なんて今までなかったのに。
 何日経ってもゆきちゃんの部屋のカーテンは閉まったまま。
 いつになったら開くんだろうか?
 このまま、開かない…?
 幼馴染だと思ってただけなのにキスされたんだからプライドの高いゆきちゃんならそれもあるかも。
 嫌われたくはないけど、幼馴染のままもいやだ。
 ほんと問題だよ。
 はぁ、ともう一度敦は溜息を吐き出した。


 学校の中でどうやったらゆきちゃん、いや如に近づけるか。
 もう部屋のカーテンが閉ざされ、窓にかぎを閉められてから二週間以上。
 生徒会の副会長様でどうやら高嶺の花らしい事をクラスの奴等が話してるのを聞いた。
 外部で高校から入学したのにあっと言う間に一条会長の信を得た、とか。
 会長様は持ち上がり組らしいので秀邦にずっといる奴らはもう小学校の頃からの会長様を知っているらしい。
 盲目的に会長様は崇拝されているらしく、その会長様に選ばれた如も自然と憧れの対象らしい。
 学校での如はいつもアルカイックスマイルを浮かべて、敦の知ってる口のちょっと悪い、すぐ怒るような如はいない。
 そんな素でない如にだって全然会えてない。
 さすがにもうそろそろ限界が近いなぁ、と敦は頭を抱え込みたくなる。
 
 敦は図書委員になった返却された本を棚に戻す作業をしてた。
 本当なら委員などかったるくてやってられない。
 でも本好きな如が図書館来るかも、とそれだけでわざわざ委員なんてものに立候補したのだ。
 図書館の本の蔵書は寄贈なども多く、膨大で広い。
 専門的な本も多くてさすが頭のいい、金持ちの学校だ、と敦は呆れる。
 その図書館の中でも、奥のほうの専門書の並ぶあたり、古い本の匂いがする人の目につかない場所にぽつんと置かれた椅子。窓からやわらかい光が差しているそこの場所を見つけてからは密かにそこが敦のサボり場所になっていた。
 それなのに今日は先客がいた。

 「ゆ、き…」
 声が漏れた。
 その敦の声にはっと本を読んでいた如が顔を上げた。
 「敦」
 ゆきちゃんが呼んでくれた。見てくれた。
 敦は椅子に座ってる如を思わず抱きしめた。
 ここは誰も滅多に近づかないからこんな事しても平気だろう。
 「敦っ!」
 小さな声で如が抗議の声を上げる。
 「ゆきちゃん…如…」
 ずっと遠かった如が目の前にいた。
 思わずぎゅうっと抱きしめる。
 毎日のように抱きついてたのにもう2週間以上ぶりだ。
 やっぱり抱き心地がいい。 
 
 


テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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