6 如(YUKI)
「敦、離せって」
小さく如が敦に訴える。
「イヤ。カーテン開けて鍵開けてくれるまで離さねぇ」
抱きついてきた敦が耳元で小さく囁く。
図書館で大きい声では響いてしまうのをちゃんと敦も分かってる。
今まで散々如の事など見ても気にもしてないのかと思えばそうではなかったらしい。
離さない、と言うんだから仕方なく、だ。
「……分かった。開けるから。……ほら、離せ」
「ヤダ。無理」
「無理、じゃねぇだろ」
「だってずっとゆきちゃん…如、見てくんねぇし、鍵閉めるし、声かけらんねぇし…」
なんだ、もしかしてこいつずっと我慢してただけか?
「もちょっとこうしててよ」
甘ったれたように言う敦に仕方ねぇなぁ、と思わず受け入れる。
ここの場所なら誰も近寄りもしないしまぁ、いいだろう。
身体が大きくなったって敦は敦だから、懐いてきて甘えてくれば条件反射のようによしよしと背中を撫でてやる。
「如、ゆきちゃん」
なんだ、こうしてればいつもの敦じゃないか。
「キスしていい?」
「………は?」
「如、いい匂いする。いっつも思ってたけど…」
敦が如の首元に頭を埋めてすんと鼻を鳴らす。
まだこいつ寝ぼけてるのか?
「あつ…」
敦の顔が目の前にあった。
午後の光は敦の髪に反射して綺麗に金茶色に染まっている。
「綺麗な色」
その見慣れた薄い色の柔らかい髪を摘んだ。
「ゆ、き」
「ぁっ」
唇を塞がれた。
大きくなった身体はもう如が守るものではない。
後ろ頭をぐいと押さえられさらに敦は深く口付けてくる。
冗談で済まされないだろ。
「あつ…」
「しっ。如」
抗議の声を上げようとしたら止められ、さらに角度を変えて敦がキスしてきた。
それにずくりと身体が戦慄く。
敦の舌がくちゅくちゅと如の舌に絡まっている。
「ぁ……あつ、し…」
「ぅ……如…声やばい、から…」
敦の背中の服をぎゅっと握る。
何度も何度も敦はキスを求めてくる。
「い、いかげん、にしろっ」
小さく怒って腹に拳を入れる。
顔が赤くなってるはずだ。
しかし、なんで敦はキスなんてするんだ!
「う……だって…如、たんねぇんだもん」
敦は呻いたけど離す気はないらしく如の身体は抱きしめたままだ。
「…鍵、開けとくからっ!…離せ」
そう言えばやっと、しぶしぶ敦が手を離した。
「絶対、だよ?」
「……分かったから」
「ねぇ、ここに如よく来る?」
「ああ。俺の休み場所だから」
「俺もいて、いい?ガッコであんまし如といられねぇのヤダ。ここだったらみっかんねぇよな?」
ヤダって子供じゃねぇだろ。
「……お前よくここの場所知ってたな?」
「俺図書委員」
「いや、委員だってめったに来ないだろ」
「まぁ。そうみたいだね。ね、いい?」
「……いいけど」
ここは如にとって息抜きの場所だったけれど別に敦なら気を張るわけじゃないし問題ない。
すると敦が笑みを浮かべた。
こそこそと頭をつけて耳打ちするように話をする。
久しぶりでもやっぱり全然違和感はない。
キス、には困るけど。
困るけどなんでこんなにすんなり受け入れてるのか。
…ずっと毎日来てた敦がいなかったからだ、きっと。
今までもう何年だ?あの家に引っ越して来たのが如が6歳の頃だから10年以上だ。そのほぼ毎日顔を合わせてたんだから。
「あ、役員会が始まる。じゃ、な」
「………鍵、開けてね」
「分かった」
眼鏡を直しながら如はその場を後しにた。
まったく敦には困ってしまう。
困ってしまうと思いながらも敦が如のいう事を聞いて我慢していただけだと分かれば機嫌はよくなってくる。
なんだ、我慢してただけか。
くすと思わず笑いが浮かんでしまう。
約束したから今日はカーテンと鍵を開けようか。
仕方ない。
「……随分と機嫌いいようだな」
「え?そうか?別に変わらないと思うけど?」
生徒会室に戻ったら和臣がすぐに如の変化に気づいた。
「何かいいことでもあったのか?」
「いいこと…?いや。別に、ただ元に戻っただけ、かな」
「ふぅん…。よく分からないが……それは二宮の隣の家の茶色の番犬の事でか?」
「………は?…………和臣、何言って?」
隣の家って言ったら敦の事だ。なんで隣って知ってる?
「生徒の住所録見ればわかることだ」
普通は分からないと思うけど…。さすが和臣はそこまで気づくのか。
しかし茶色の番犬?
「あいつの本命は二宮か?」
「……は?」
和臣がじっと如を見ていた。
どう答えればいいんだ?
「本命?」
如が首を捻った。
「…違うのか」
ちっと短く和臣が苛立ちを見せて舌打ちするのに珍しいものを見た、とちょっと如は呆然とした。
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