10 如(YUKI)
授業中、窓際の席の如は校庭を見ていた。
体育の授業やっているのは敦のクラス。
背が高いのと髪の色ですぐに敦が分かる。
あの三浦くんって子といつもじゃれあうようにして一緒にいる。
肩組んだり笑ったり…。
頬杖つきながらじっとそれを見ていた。
真面目に、ちゃんとすると約束した敦は手を抜かないでやっているらしい。
体力測定らしく、今日は短距離のタイムを測っているみたいだ。
敦が走り終わって他の皆がなにか騒いでる。
きっとタイムがよかったに違いない。
アイツはなにしたって秀でてるんだ。
ただ今までそれを全部隠してきたから。
小学校の時はただ可愛かっただけのに…。
あっ…。
三浦って子が顔を真っ赤にして敦に抱きついてる。
何してんだ!?
敦も三浦って子の髪の毛ぐしゃぐしゃにかき回してる。
ふざけてる、んだろうけど…。
なんだよそれ、と如は見ていられなくなる。
敦は毎日部屋には来るけれど来るだけで、抱きつかない、キスもしないと言ってから本当にしなくなった。
毎日抱きついてきてたのは敦なのに。
ふざけてない、って言ったけど…。
そして来てもすぐに自分の部屋に戻って行ってしまう。
今まではぐだぐだとずっと如の部屋にいたのに。
如が勉強してれば如のベッドに寝転がってただそこにいたりもしたのにそれもしなくなった。
なんだよ…。
いきなり変わってしまった態度に如はついていけない。
如がふざけてる、と言ったからだと分かってはいるけど。
ずっと小さい頃から知っている可愛いかった幼馴染の敦は何年も前にいなくなってしまった。
その後の身体がでかくなっても変わらなかった幼馴染もいなくなった。
じっと敦を見ているとその敦がまるで如の視線に気付いたようについと顔を上げた。
びっくりして如は思わず目を大きく開けてしまう。
視線が絡んでいる。
ここは3階。
なのに敦は如を見ていた。
小さく敦が如にだけわかるようにひらと手を振る。
どうしようか、と思ったけど如もそっと窓から指だけを振り返した。
すると敦が満面の笑みを浮べたのが分かった。
それに思わず如はかっとして顔が赤くなりそうになり、視線を教室に戻す。
なんで離れてるのに敦の表情まで見えるんだ?
思わず顔を伏せる。
でもさっきまでちょっとささくれ立っていた気持ちが敦のたったそれだけの事でどこかになくなっている。
ちょっとして視線を校庭に戻せばもう敦はこっちを見てはいなかった。
なんだよ…。
「二宮、君の番犬はいったいどうなっているんだ?」
和臣は何故か知らないけど敦の事を犬呼ばわりする。
「……和臣、敦は犬じゃないけど?」
「ほう……」
和臣がおや、という表情で如を見た。
「なんだよ」
「いや…。二宮に確認したいのだが、ばん……柏木が好きな相手は君か?」
「な……」
教室で顔を突き合わせ小さな声で和臣が確認をして来るのにかっと如は顔が真っ赤になった。
「…ふぅん」
「ふぅん、って何だ!?」
小さい声ながらも如は抗議する。
「いや、ば…柏木が二宮を好きで二宮もそうなら何も問題はない」
和臣は何度も番犬と言いかけて言い直ししている。
「どういう意味?」
「そのままだが?ヤツは二宮と一緒にいる俺を睨んでくるんだいっつも!まぁ、別にそれは構わないけれど。だから本命は君なのかと思ったんだ」
「……本命?」
「…いや、なんでもない。で、どうなんだ?」
「………知りませんよ」
別にわざわざ和臣に教えてやる必要はないけれど…。
それにしてもいつも和臣を睨んでる?敦が?
そんなの知らない。
「付き合ってる、んではないのか?」
「はぁ!?何言ってんだ?」
思わず動揺して口調が乱れた。
その如の口調に和臣も目を丸くしてる。
「いや、すまない。……付き合ってるって、どういう事?」
ふっと息を吐き出して同様を治める。
「互いが好き同士なら付き合うだろう?」
「……好き?誰が誰をです?」
はぁ、と和臣が溜息を吐き出した。
それにしたってなんだって和臣は敦と自分をくっつけようとしてるんだ?
「二宮、素直になる事は別に恥かしくも愚かでもないと思うが?」
「………そういう和臣は何をそんなに気にしているんです?」
そう、ずっと和臣は何故か敦をものすごく気にしている。
自分に対し和臣は信用を置いてくれているのは分かっているけどそれだけなのも分かっている。友人としてのという意味では好意を持っているのも分かるけど、敦が言うような好きの意味ではないのも実感して分かっている。
それなのに敦を異常に気にしているのだ。
「別に何も気になどしていない」
しれっと和臣が答えた。
…絶対嘘だ。
テーマ : BL小説
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