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熱視線 間奏4~怜視点~

 怜は眠ってしまった明羅の髪を撫でた。
 柔らかなさらさらの髪。
 これがあれを作った?
 信じられない思いで明羅を見た。
 ヘッドホンから流れてきた機械の音。
 複雑な和音、旋律、スケール、圧倒的な音の氾濫。
 だが全部違う。自分が弾けばこうではない、そう思いながらも全部に惹きつけられた。
 真っ黒といっていいような音符の羅列の楽譜。
 機械の音に不満足でピアノに向かった。
 ぞくぞくと背中が戦慄いた。
 これを作った?
 ありえない。
 だが知らない曲。そして怜には分かる曲。
 指示など何も書いてなかった。それなのに、どこをどう表現したらいいのか分かった。
 
 何者?
 10年前から怜をずっと見てきた子供。
 なんの気もなしにお持ち帰りしてきて、そして普通に怜のテリトリーの中に納まったのにも驚いたのに、さらにその才能に驚愕させられた。
 ピアノだってアレを弾ける位ならば相当なはずなのに絶対弾かないと言う。ピアノは諦めたと言うのだ。
 それが怜のせいだと。
 自分の何がそんなに明羅を刺激しているのか。
 そして怜を全部知っているような曲。
 怜の為の曲だという。
 たしかにそうだ、と確信は持てる。
 あれを全部分かって弾けるのは自分だけだ。
 だがどうして…?
 
 考える事が多すぎて怜は頭をがしがしと搔いた。
 海に行った事がないなんて、と日中は微笑ましかったのに、帰って来て豹変した。
 車の中でも怜がサングラスをかけただけで落ち着かない様子なのに笑いそうになった。
 意識してるのは目に見えて、可愛いと思った。
 そうしたらもう、どこもかしこも可愛く見えてきて、自分はおかしいのではないかと首を捻った。
 いや、可愛いとは思ってはいたが…。
 そしてあの曲で、一気に怜の心を捕らえていってしまった。
 ずっと自制をかけていた、と今ならいえる。
 華奢でも色が白くても可愛くてもこれは男だと、自身に言い聞かせていたのに、それを一気に取り払ってしまった。
 そして湧いてきたのがお前が欲しいだ。

 それで思わずエリック・サティのジュ・トゥ・ヴを弾いてた。
 くさい!と自分でも苦笑が出そうになるが、あの時はそれしか浮かばなかった。
 しかも桐生 佐和子と桐生 博の息子。
 桐生 博とは会った事はないが佐和子には何回かレッスンしてもらった。その息子…。

 はぁ、と怜はすぅすぅと寝息をたてている明羅を見ながら嘆息する。
 そしてあろうことか自分よりも10も下で、コンサートに初めて来た時は7歳だという。
 自分が7歳の時の事なんて何もおぼえてもいやしない。
 環境が音楽に満ちていただろうからこうなったのか?
 それにしたって両親は本当にほぼ日本になどいないはずで。
 海に遊びに行った事がないのだって頷ける。
 
 それより問題なのは10も下だったというところだ。
 まだ高校生!
 「…勘弁してくれ」
 男で、という所には最早引っかかりはなかった。
 生方に言われた男に走ったか、を全面否定したが、撤回しなければならないだろう。
 いや、別に男に走ったわけではなくて、明羅だったからだ。
 ずっとあの子供を気にしていた。
 そしてあの子供が今日怜に息を吹き込んだのだ。
 手放せない。
 あの音楽が欲しい。
 …天才。
 思わず怜の頭に浮かんだ。
 あれをたった4日で仕上げたのだ。

 そこに怜の表現したい音が詰まっていた。
 その音を明羅は出せないと言う。そして出せるのは怜だけだと。
 10年気にしていた子供がまさかこんなだとは思いもよらなかった。
 そしてお持ち帰りした時だって自分がこんなに明羅が欲しくて焦燥に駆られるだなんて考えてもなかった。
 「宗と同じ年…」
 がくりとうな垂れる。
 しかもまさかの同じ学校だという。

 「…勘弁してくれ」
 だがそれでももう明羅を離せないだろう。
 あの曲が怜の物であるかぎり、明羅は怜のものだ。
 しかしまだ17。
 淫行…。
 怜の頭に不穏な二文字が浮かんだ。
 キスはいいだろう。
 さっきだって思わずキスしていた。
 男とキス。
 ありえねぇ、と嘆息する。
 でも全然よくて。
 やっぱり明羅だから特別なのだ。
 「でも17…」
 17はいかんだろう。
 怜はがくりと肩を落とした。
 
 

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