14 敦(ATSUSHI)
意識を失うように倒れこんだ如の身体を敦は抱きとめて、そして抱き上げた。
足でドアを開けて保健室に向かう。
くったりと力を無くした如の身体に敦は焦りが浮かぶ。
いきなり周囲の視線を浴びているのは分かったけれどそんな事はどうでもいい。
「すんません、急に倒れたんですけど!」
ばたんと保健室に飛び込むと、保健室のベッドに如を寝かせてやる。
「急に熱出たみたいで…体調は今朝も昨日も悪くなかったはずなんですけど」
「………?この子副会長の二宮くんでしょ?君は?」
「あ、1年の柏木です。ええと…フクカイチョーとは家が隣で幼馴染なんで」
「ああ、そういう事…」
「はぁ…」
なんか知らないけどばつが悪いような気がするのは何故だ?
「あら本当熱があるわね。でも体調悪くなかったって?」
「はい。朝も全然普通でした」
朝は校門で顔を合わせるだけだけどどこも具合悪そうなところなどなかった。
「お母さんは?お家いらっしゃる?」
「いえ、働いてます。……早退?ですか?なら俺がついていきます」
「………でもねぇ」
「放っておけないし。さらに具合悪くなったらちゃんと如のお母さんに連絡入れますから」
「家までどのくらい?」
「歩いて30分位です。タクシー呼んでもらってもいいんで」
「そうね…一人でも帰せなさそうだし」
「如、ゆき…?聞こえる?」
「ん…?あ、つし…?」
うっすらと如が目を開けたので敦は手を伸ばして如のきっちり閉められた詰襟のホックを外してやる。
「具合は?」
「え…?なんかぽわぽわしてるだけ、だけど?」
「……ぽわぽわ…?」
なんだその可愛い表現は?
「家帰るから」
「ん、分かった…。あつし…」
「何?」
如が手を伸ばして敦の制服の袖を引っ張った。
「あつしは?」
「ついてくけど?」
「…ならいいや」
すこんとまた如は目を閉じてしまった。
「寝ちゃった?」
保健の先生と顔を合わせた。
「寝不足かしら…?」
「別にそうでもないと思うけど…。電気消えたのもいつもと同じ位だったし」
「あらそう。……随分と仲良しなのね?」
「ええ、まぁ。小さい頃からずっと一緒だったから。部屋もすぐ隣なんで」
「へぇ…。どれ、キミタチの鞄を取ってきてやるよ。君それじゃ動けないでしょ?あとタクシー呼んでくるから。お金は平気なの?」
「…はぁ…。すみません。金は大丈夫です」
いえいえと保健の先生が笑ってる。
如の手は敦の袖をぎゅっと握ったままだった。
保健の先生がいなくなって如と二人きりになる。
「如…?」
「ん……」
頬に触れても起きる気配はない。
今ならちょっとキスしても大丈夫かも、とも思ったけど止めておく。
それは卑怯だろう。
とりあえずまだ我慢できそうだから言える強がりだけど。
「如、ゆき?起きられる?」
「ん…」
敦が呼べば如がむくりと起き上がろうとするけどやっぱりふらふらしてる。
「あらら…でも本当そんなにひどそうじゃないわね」
「…ですよね。なんだろう?こんな如見た事ないな…」
ふらふらはしてるけど具合が悪そうではないってどういう事だろう?
「あつし…」
如が敦に抱きついてくる。
「……鞄持ってもらっていいすか?」
「え?そりゃいいけど」
保健の先生が頷いたので敦は如を抱き上げた。
「あつし!…お姫様抱っこだ……」
如がくすくす笑っている。
「ゆきちゃん?……なんだこの酔っ払いみたいなテンションは?」
細い肩を揺らして笑う如に敦は怪訝な表情になる。
「如、酒なんて飲んでるはず、ないよな…喉痛いとか頭痛いは?」
「あるわけないだろ。…喉痛い?全然?」
「…だよな。……コレ、本当に大丈夫ですかね?」
敦が保健の先生の方を見ると顔を合わせた。
「副会長くん……ストレスでも溜めてる?」
「……それは溜まってる、かも、です」
「………明日も様子がおかしいようだったら必ず病院ね。多分大丈夫だと思うけど…」
そう言いながらも保健の先生もいつもと全然違う如に何となく不安げだ。
そりゃあそうだろう。学校での如は表情を見せないし凛としてる感じだから。
実際はそうでもないのを知ってるのは敦だけだ。
「見た感じでは具合悪そうではないようだけど。熱上がるようだったら、もしくは具合が悪そうだったらすぐ病院、ね?」
「はい」
敦は頷く。
「如、大人しくしてて?」
「ん……」
素直に頷く如は可愛い。
そのまま如をタクシーに乗せ、敦は家まで如を我が物顔で連れ帰った。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学