17 敦(ATSUSHI)
「何言ってんだ?寝ぼけてんのか?」
一瞬息を止めた後、真っ赤な顔で如がそう言ったのに敦は大きくため息を吐き出した。
「……いいよ。そういう事にしといてやるから」
「なんだよ。それ」
むっと口を尖らせたって可愛いだけだってのに。
「ゆきが脈あるの分かったし。いいや」
「なんだよ?脈って!」
「だってキライな奴に如はキスなんかしねぇだろ?手だってこうなんかしねぇだろ」
がっしりと指が絡んだいわゆる恋人つなぎになってる手を持ち上げて見せればさらに如が真っ赤になる。
「ゆきちゃん素直じゃな~い」
「…………」
そこまで言ったって如が手を離す気はないらしいのにおかしくなってきた。
「ゆき、可愛い」
「……だからふざけんな、って言ってるだろ」
「ふざけてないし?……それにふざけた感じの方が如はいいんじゃない?」
マジになった時如は震えて泣いたんだ。
あんな顔はさせたくない。
「まぁ、俺は如のものらしいから何したっていいけどね」
「…………」
「あ、覚えてるんだ?言った事」
「…覚えてない」
「嘘だ」
「覚えてない!」
真っ赤になってるのに否定する如が面白くて可愛い。
どうやらちゃんと如は言った事も行動も全部覚えてるみたいで敦はほっとした。
それまで忘れられてたら目も当てられなくなる。
それならいいか、と敦はそれ以上突っ込むのをやめた。
意地っ張りな如はきっといくら言っても素直に認めないだろうから。
「如、具合は?悪くない?見たとこ大丈夫そうだけど?」
「あ?ああ。…ん。大丈夫」
話題を変えてやればほっとしたようにして如が頷いた。
「んでもとりあえず大人しく寝てないとね。手は?このまま?」
「………このままっ!」
開き直ったように如が声をあげるのに敦はふきだした。
可愛すぎる。
これがフクカイチョー様の素なんて知ったらきっと学校の奴らは驚くに違いない。
………あ、と敦は如を抱いたままで学校の中を横断した事を思い出した。
「如」
「ん?」
「…明日……」
まずいかも。
「明日どうかしたか?」
「ほら、俺さぁ…如、図書館で意識失うように倒れてびっくりたから図書館から保健室まで如をお姫様抱っこだったんだけど…?おまけに一緒に早退って…」
「げ…まじか?」
如がげんなりした顔をした。図書館から保健室まで結構な距離があってかなり人の視線を集めてたのは気づいてた。
「これで俺、如と公式にお付き合い?」
「ああ?誰がだよ?いいよ。幼馴染だって言えば」
「ちっ」
「なんで舌打ち?」
「幼馴染じゃなくて」
「調子のるな」
「だってほら、恋人繋ぎする仲だし」
「………違う」
まったく真っ赤になって可愛すぎる。
「あ、メールだ」
如の携帯の無機質な着信音が脱いだ制服から聞こえてきたのに仕方なく手を離して携帯を取ってやる。
「和臣からだ。明日朝俺は立たなくていい、だって。普通登校だな」
「あ、じゃ明日朝一緒行こう?」
「は?なんで?」
「だって保健の先生にちゃんと如の容態報告しろって言われたし」
そんな事は言われてないけど。
「そう?」
「そう!………いいけど…。俺、如からメール貰った事ってめったにないんだけど?」
「ああ?だって敦はいつだってそこにいるし」
如が指で敦の部屋を指差す。
「呼んで顔出したほう早いだろ」
「そうだけどさ…。今度メールちょうだい」
「……なんでわざわざ?」
「欲しいから」
「……意味ねぇ」
如が呆れてる。
すっかり如の口調はいつも通りで安心するけど、少しだけ残念だ。
「でもほんと、なんで急に熱?」
「……わかんねぇ、……」
ん?微妙に如の顔が赤くなってる。
また熱か?
「ゆき?」
額はヒエピタが貼られたままなので首に手を伸ばした。
「あ、つしっ?」
「ん?ああ。熱じゃねぇ、な?」
「違うっ。大丈夫だって!」
慌てた様子の如に敦は首を捻った。
そのまま心配なので今日は如の部屋で遅くまで過ごす。
でもそれ以降はやっぱり如は普通で熱も出ない。
知恵熱じゃないの?と帰って来た如のお母さんがあっけらかんと笑った。
知恵熱?なんで?
まぁ、具合悪くないならいいけど。
「如、もう眠い?」
「ん…。眠い」
一応ベッドに横になったままだった如の目がとろんとしてる。
「いっつも遅くまで起きてるから。今日はもう寝ろよ」
「…そうする」
「じゃ、電気消してくぞ?」
「…あつし、今日、ありがとうな?」
「全然。じゃ、おやすみ」
キスしたいとこだけど我慢だ。
如の部屋の電気を消して敦は自分の部屋に戻る。
するとすぐに携帯が鳴った。誰だ?と思うとなんと如だ。
おやすみ、と一言だけ。
くぅ、と思わず携帯を持って震えてしまった。
やる事可愛すぎるだろう!
テーマ : 自作BL小説
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