18 敦(ATSUSHI)
高校になって初めて如と一緒の登校。
中学ン時以来だ。
中学の時は如がサッカー部に入ってて敦も追いかけて同じ部活に入って。
全部如の後ろ追いかけてるのに全然如は知らんふりだ。
でも昨日は如からキスしてくれて、メール欲しいって言ったのにメールくれて、正気じゃない時だったけど、かっこいいって言って如のものだ、発言して、手繋いで、一緒に寝て、お姫様だっこ堂々として。
なんかどれもこれも嬉しい事ばかりで敦は顔が緩みっぱなしになってしまう。
「ゆきちゃん、おはよ」
制服に着替えて窓から如の部屋に渡っていく。
「…はよ。何だ?朝っぱらから」
「昨日、靴如んちで脱いだから俺の靴こっちにあんだよね」
「ああ。そっか。帰ったの窓からか」
「そ」
そこに階下から敦くんの靴と鞄あるよ~と声が聞こえてくる。
「……如、メールありがと」
「………別に」
つんとしたってその如の顔がちょっと赤いのに敦の顔は締りが悪くなる。
「……にやけすぎだ」
如が敦の顔に手を伸ばしてほっぺたをぎゅっと引っ張る。
「だって如可愛い事ばっかすっから」
「……可愛いじゃない!」
眼鏡を直す如。照れてるのがまた可愛い。
一緒に階段を下りてくと如のお母さんがいた。
「はよっす」
「敦くん。昨日は如がお世話かけて」
「いいえ。全然」
にっこりと微笑むと如のお母さんもにっこりと笑う。
「敦くんいい男になったよねぇ。如なんて女の子みたい。小さい頃とすっかり反対になっちゃった。敦くん如もらってくれる?」
「…是非っ!!!」
敦は力いっぱい肯定した。
「お母さん!?敦!?」
「そうよねぇ~。ずっと敦くんとばっかいるし」
「俺はもうゆきちゃんのものらしいので!」
「あら、そうなの?」
「…ふざけてないで行くよ」
如が敦の詰め衿の後ろを掴んで引っ張っていく。
「いってらっしゃ~い」
如のお母さんの明るい声に敦は手を振りながら如と一緒に如の家から出て行く。
「やっぱりふざけてる」
「え?俺真剣だけど?如のお母さんに如いる?って聞かれたら貰うって言うに決まってるでしょ」
「………」
呆れたように如が敦を見上げてる。
そしてはぁ、と小さく息を吐き出した。
「本当にふざけてない。如が貰えるならもらう。貰えなくても奪うから」
「……俺の意思はないわけ?」
「え?だって如も俺の事好きでしょ?」
「いつ、誰が、そんな事を言ったんだ?」
「……………言ってはないけど」
「随分お目出度いな」
如の冷たい一瞥と言葉に敦は思わず黙った。
昨日の事で頭に乗りすぎたか?
嫌われてないのは確かだろうからこれ以上刺激して機嫌を損ねたら大変だ、とこれ以上余計な事は言わないようにする。
折角いくらか、なんとなく、如が認めてきているのだからそれをわざわざ潰す必要はない。
学校に近づくにつれ秀邦の生徒の数が増えていき、そして否が応でも注目を浴びる。
美貌の副会長の後ろにぴったりと敦は張り付いて歩いた。
如から離れろという言葉はないので構わないのだろう。
いいけど、どんな心境の変化だ?
最初は近づくな、話しかけるなだったのに。
「ねぇ、如?」
「何?」
「ああ~…何でもない」
自分から離れたほうよくない?と聞くのは嫌で思わず視線を如から外した。
すると如がくすっと笑った。
「別にいい。……敦、制服だらしない」
くいっと如に開けっ放しの学生服の前を引っ張られた。敦の言いたい事が分かったらしい。
「詰襟まできっちり閉めろとまでは言わないけど、もう少しましにしろよな。取り締まる側の俺といるなら」
「はいはい」
そういう如はちゃんと詰襟の上までぴしっと締めている。
でも今の言い分だと一緒にいていいって事だ。
「ゆき、直して?」
「……バカか?」
如の呆れた声と視線にちぇっと敦が口を尖らせた。
「ああ、そうだ……。敦」
「ん?」
「あの、な…和臣がな。その、お前の事を番犬呼ばわりする、んだ…」
「はい?」
番犬?
「…如の番犬ってこと?」
「…さぁ?お前の前でまで言わないとは思うけど、怒るなよ?」
敦は思い切りふきだした。
「番犬、ねぇ…」
ぶぶっと笑ってしまう。
「ま、番犬でもいいけど。別に怒んねぇよ。…ん?何?」
じっと如が敦を見上げてた。
「いや。そういや敦ってあんま怒るって事しねぇな?」
「怒ることはあるけど?」
「……見た事ない」
「如に怒るトコなんてねぇもん」
ふぅん、と仄かに如が顔を赤くするのに周りの奴らが皆びっくりして見てるなんて如は全然気付いてもいないらしい。
敦は頭を抱え込みたくなった。
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