21 如(YUKI)
そんな簡単に好きだ、なんて言葉をさらりと言えるのがふざけてるように思えるんだ。
熱くなった顔で思わずじっと敦を見た。
すると図書館でいつもだったらありえない騒々しい人の声が聞こえる。
「如」
すっと敦が如の姿を隠すように前に立って棚の先を睨んでいる。
「だからこの辺りって人いねぇから」
「うわっ!古い本くせぇ!」
本棚の陰から人の姿が見えた。
前に敦が立っているから顔は見えないけど。
「あ!コイツ1年のヤツだ」
「後ろにいるの副会長サマじゃねぇ?」
下卑た声。前に敦が立っているので視界が遮られ姿が見えないけれど足が見えて3人か?と如は眉を顰める。
秀邦は優秀な学校でもあるけど、金を積んで入ってきたクズがいるのも確かだ。
「逢引?」
馬鹿にした笑いも聞こえる。
「静かにしてもらえます?図書館なんで」
敦は怯むところもなく普通の声で注意を促す。
いいから絡むな、と言う意味を込めてくいと前に立つ敦の制服の端を如が引っ張った。
「おめぇらこそここでナニしてんの?」
「噂のヤツらだろぉ?」
昨日の事が知れ渡っているらしい。イヤラしい笑いが聞こえる。
如はかっとしたけど敦が冷静だった。
どうやら顔は見えないけれど口調から3年生らしいと如は当たりをつける。
「お綺麗な副会長サマのお相手か?交ぜてくれよ?」
「……意味分かんないっすね」
敦が如に手を伸ばして立たせた。そして下卑た3年から如を庇うようにしながら、さらに背中に手を添えてくる。
すれ違うその時にそいつらの顔が見えた。
「おい!どこ行くんだよ」
「教室に戻るに決まってるだろ」
如に向かって3年が手を伸ばそうとした所を敦がすぐにその腕を掴んだ。
「触るな」
敦の低い声。
いつも如に対してのとは全然違う声だ。
「いって…」
「だせぇ!1年にやられてやんの!」
嘲笑。
その場から離れるとはぁ、と敦が溜息を吐き出した。
「図書館もういけねぇな…。如もくんなよ?あれ3年の誰?」
「政治家のバカ息子」
敦の声が普通に戻ってるのにほっとする。
「あ~あ…折角の如との時間が…。最悪」
「………明日から屋上に、行く、か?」
「へ?」
「屋上の鍵先生から借りる、から」
思わず言ってしまってから如は自分がわざわざ昼休みに敦といる事を選んでいるのに気付く。
「…まじで?」
「あ、ああ」
ちょっと自分でも焦ったけど敦は疑問もないらしいのにほっとした。
「敦?1年そっち」
1年と2年で棟が違うから廊下で分かれるはずが敦が一緒についてくる。
「…教室までついてく」
「え?別に…」
「カイチョーに話あっから」
「…そう?」
なんで敦が和臣に話があるんだろう?
不思議に思ったけれど如が口出しすることではない。
敦が一緒に教室まで姿を見せると教室がざわついた。
「カイチョー呼んで?」
ざわついたのにも敦は平然としてるのに呆れる。
「和臣、敦が…話あるって」
机で一人座って本を読んでいた和臣に声をかけた。
「俺?」
和臣は怪訝そうな顔をしたけど敦のいる廊下に出て行く。
背の高い二人で何かこそこそと話しているのが気になる。敦の視線はずっと如を向いたまま。
するとちょいちょいと敦が手でおいでと如に合図してくる。
「何?」
「なんでもないけど。じゃ俺教室戻っから。ああ、と帰り迎えに来る」
「は?」
「二宮、今柏木からきいたけど赤井沢に目を付けられたって?あれはちょっと気をつけた方がいいから、なるべく一人にならないほうがいい。家も隣な彼ならそれこそ打ってつけだから」
「…別に平気」
「だめだ」
敦と和臣が声を揃えた。
「なるべく早めに手は打つようにするけどそれまでは二宮も気をつけないと」
「じゃね、如」
敦がひらひらを手を振って自分の教室に戻っていく。
「和臣、なんで敦と仲いいんだ?知り合いだったのか?」
「まさか。彼とは協定を結んだから」
「協定???」
「そう」
くすと和臣が笑う。
「あれは面白いな」
「敦?そう…?」
くすくすと和臣が上機嫌で笑ってた。
珍しい事もあるものだ。
敦は和臣の中で番犬扱いから浮上したらしいのに如も満足した。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学