32 敦(ATSUSHI)
「聞いた?」
「聞いた聞いた」
声をかけて如が敦の部屋に入ってきた。
「なに、お前料理できるの?」
「当然でしょ。だって如って手先、以外に不器用だから出来なさそうだと思って」
敦が当然の様に答えると如はむっとした顔をした。
「………………ムカつく」
「ムカつくじゃないだろ?」
敦が思わずふきだしてしまう。
「敦、そこ座って」
「?」
その仏頂面になった如が敦にソファを指差した。
風呂ももう上がってきてるからあとはもう寝るだけ。
でも明日は休みだし如はDVDを見られるだけ見るつもりなのだろう。
敦が座ったところで如がDVDの続きをセットし、するとリモコンを手に敦の前に如が座ってきた。
「ゆ、ゆき、ちゃん…?」
「ん?なに?」
とす、と如が敦の胸に背中を預けてくる。
すっぽりと敦を背もたれにして如が寄りかかってくると、鼻腔に如のシャンプーの香りが刺激してくる。
これ、抱っこしていいのか…?
敦はおそるおそる腕を如の腹にまわすが、如は何も言わない。
久しぶりの如の感触だ。
思わず腕に力が入ってしまう。
「苦しい!」
「あ、わり…っつうか、何これ?」
「ん?お前ばっか余裕かましてるのにムカついたから」
意味わかんねぇ…。
でもなにしろ触んなとか言われてる身にしたら歓迎される事だ。
「ゆきちゃん」
如の肩にあごを置いて匂いと感触を確かめる。
「ほら、見るぞ」
どうやら体勢はこのままで見るらしい。
だから何がどうやってこの体勢に行き着くのか如の思考回路が可愛すぎると思う。
こんな事されて理性は普通保てなくなるとは思わねぇのかな?
それともして欲しい?
……いや、絶対にそれはないと思う。
安心しきったように如が身体を寄りかけてるんだからそこまで考えるはずない。
このまま押し倒してぇと敦は欲望と必死に戦っていた。
「如」
「うるさい。黙ってみてろ」
DVDは気に入ったらしい。
手動かしてぇ。Tシャツの中に入れたい。
目の前に如の項がある。
ここにキスしたい。
でもとにかく理性を総動員させて我慢しとく。
如に神経が行かないようにテレビに視線を集中させた。
「ゆき?」
「……ん~…?」
おや、と思ったのはもうDVD2本目が終わる頃だ。
如の身体がくたりと重くなってきた。
「おい?寝んな」
「…寝ねぇよ?」
その声がとろりとしてる。
「襲うぞ?」
「……ん……」
ん、じゃねぇだろうが。
後ろから顔を覗き込んだら如の目はすでに閉じている。
「ゆき?ゆきちゃん?」
「ん……」
とんとんと肩を叩くけど全然安心しきったようにもう本気で寝そうになってる。
「寝るの?」
「寝る」
むくりと如は敦から離れて這って敦のベッドに移動した。
「敦…」
「何?」
「寝る。来い」
来い~?
とりあえず逆らう事はしないでDVDを消して如の隣にのそりと敦は移動した。
すると如の手が伸びてきて敦の身体に手をかけてくる。
「お前…でかい……」
うっすらと目を開けてるのに寝ぼけてるのかそうじゃないのか判断つかない。
ちゃんと分かってるのか?
「だめだ。眠いから続き明日、な…」
「はいはい。……ねぇ、フライングだけどキスしていい?」
「ああん?キスぅ?なんで?」
「したいから。ダメ?」
「ダメ、じゃねぇ…けど…」
おや?と敦は如の眠ってる顔をじっと見た。
ちゃんと敦だって分かってはいるんだよな?
「如…好きだよ」
囁いて眼鏡を取ってやり、如の眠ってるこめかみにキスすればくすぐったそうにしている。
起きてるのか?
でもやっぱり寝ぼけてるのか。
「ゆき…」
敦は我慢出来なくて如に唇を重ねた。
「あ、つ…し……」
如が名前をよんだのにちゃんと分かってはいるんだ、とちょっと安心する。
その後はすぅと静かな寝息になってしまって本当に眠ってしまったらしい。
いいのか、これ?
据え膳じゃねぇか?
如の手が敦の身体にかかっている。
今までずっと抱きしめるの我慢してたのに。
敦は眠ってしまった如を思い切り抱きしめた。
毎日だったのがそうじゃなくて物足らなかった。
今はもう本当はこれだけでは全然足りないんだけど、今はこれで満足だ。
無意識で如から手を伸ばされれば嬉しいに決まってる。
生殺しだけど…そこはさすが如だと思わず敦は納得してしまった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学