はのんのBL部屋

35　　敦(ATSUSHI)


　「柏木？どうかしたか？」
　そこにちょうどカイチョーがやってきた。
　敦は小さく震えてる如の手が自分の制服を掴んでるのに如の頭を抱えた。
　「如の机。交換して」
　カイチョーと一緒にいた三浦も怪訝そうに如の席に視線を向ける。
　三浦は口を押さえて真っ青になって、カイチョーは表情も変えない。
　「………悪いが二宮の机、運び出してもらえるか？」
　カイチョーは教室の端にいた二人に声をかけた。二人は嫌そうな顔をしながらも動き出す。

　如の机の周りに散らばったティッシュの残骸。机の中にも。上にも。
　すでに干からびていたけど、何をされたのかヤローなら分かる。
　
　「この事は他言無用だ。分かっているだろうけど」
　カイチョーが運んでる二人に冷徹な声で低く言えば二人が黙って頷いている。
　「ゆき」
　如が顔色を真っ青にして小刻みに震えてるのに敦は顔を歪めた。
　「…大丈夫」
　如が平静を保とうとしながらそう言うのに思い切り抱きしめてやりたくなるけど、さすがにそれは出来なくて仕方なく肩を叩いてやる。
　机を運んだ二人が新しく別な机もカイチョーの指示で運んでくる。
　
　自分の机にかけられたモノ。
　如がどう思っているか…。
　このまま家に連れて帰りたい衝動に駆られる。
　「大丈夫だ」
　ふっと如が息を吐き出して自分を整えている。
　「如」　
　如が敦の制服を掴んでいた手を離した。

　「……どうという事はない」
　顔をあげた如はいつもの学校での如の顔に戻っている。
　「ありがとう。すまなかった…。そんな気持ち悪いもの片付けてくれて」
　如が机を片付けてくれた二人に向かって礼を言っているのを敦は眉間に皺をよせて見ていた。
　平気な顔をしているけど如は全然平気じゃない。
　如を思って敦はぐっと握り締めた拳が震えてさらに、ぎり…と唇を噛んだ。
　一人じゃないだろう。
　図書館にいた時の3人か？
　二人は赤井沢の取り巻きだとカイチョーが言ってた。
　どうしてやろうか。
　呼び出すか？でもその間如が一人になってしまう。
　「柏木」
　呼ばれて敦ははっとカイチョーを見た。
　「手は出さなくていい。俺が処分する」
　「いや、…」
　「いい、と言ってる。お前は二宮の事を考えてろ」
　「俺は平気だ」
　青い顔をして如が強がりを言っている。
　如は人に弱みは見せない。
　「連休明けには終わってるから。柏木、いいな？」
　自分の手で白黒つけたかったが会長にそう言われては頷くしかなかった。
　「………お願いします」
　「柏木は不本意だろうけどな。大丈夫だ。二度と顔を見せられないようにしてやるから」
　にこりと笑う一条　和臣はただの生徒会会長の顔ではなかった。
　それはすでに人を従える支配者の顔。
　敦は黙って頭を下げた。
　「ゆき」
　「…大丈夫だって言ってる。ほら、三浦くんと教室行け」
　「二宮はちゃんと見てるから」
　カイチョーに言われてしぶしぶ敦は頷く。
　「如、無理するなよ？何かあればメールして？」
　「…大丈夫だって言ってる」
　敦が如にだけ小さく囁くように言えば如が表情を変えないで答える。
　でも敦には無理してるのが見えた。
　「ガッコ今日だけだから。明日から休みだし」
　「……ああ」
　ふっと如が表情を和らげたのにほっとした。
　「ゆき、明日からの食いたいの考えててね？オヤいなくなって俺ゆきのお世話係だから」
　「……お前そんなに料理出来るのか？」
　如が素で驚いた顔をする。
　「いや？でも本とか、作り方とかネットとかで見れば出来るでしょ」
　「……やなヤツ」
　くっと如が笑ったのにほっとした。
　「じゃ、あとでね？……」
　如には軽口言って肩を叩き、カイチョーには目でお願いします、と訴えればカイチョーが小さく頷いた。
　「三浦、行くぞ」
　「あ、ああ…」
　三浦の方がまだ動揺しているように見えた。
　三浦の腕を掴んで如の教室を後にする。
　
　「な、なぁ…フクカイチョー大丈夫…？いい、のか？」
　「……仕方ねぇだろうが。お前も気をつけろよ？」
　「……………う、ん……」
　三浦が殊勝に頷いている。
　「サッカー部も問題児多いんだろ？一人になるなよ？」
　「………」
　こくりと三浦が頷いている。
　如がされた事を目の前にしてさすがに三浦も考え込んでいるらしい。
　「そのまんまカイチョーに寄りかかってりゃ安心すんのに」
　「………でも」
　それでも素直に頷かないほど三浦は強情だ。
　
　

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