38 如(YUKI)
「ベンキョ、してたんだ…?」
机に教科書が広がっていた。
未だかつて敦のそんな所なんて見た事なかったけど。
「…俺だって満点はキツいから」
あ…。
如は自分が言った満点取ったらと言った事をすっかり忘れてた。
「…………如、忘れてた、なんて言わねよな?」
「……言うわけないだろ」
胡乱な目で敦が見てるのにふいと如は視線を外した。
「ぜってぇ忘れてただろ!?」
「そんな事ない」
忘れてたわけじゃない。ちょっと記憶の端のほうに行ってただけだ。
それより、敦が如を好きにしていいか、って言ってた方が気になってきた。好きにってどんな事だ…?
聞きたいけど聞くのも怖い。
敦はちろりと如を睨んだけどそれ以上何も言わないでまた机に向かった。
如は敦のベッドに転がって置いてあったサッカーの雑誌を手に取る。
中学の時はサッカーばっかりしてた。
そういや敦が2年で如が3年の時には敦はもう背が大きくなっていてサッカーも上手くて2年でレギュラーになったんだった、と思い出す。
一緒に試合も出た。
こんな雑誌買う位だから今だってサッカーは好きなんだろうに部活には入らないらしい。
如よりもずっと上手いのにもったいない。
ん…?
枕脇にもなんか雑誌があった。土日には見なかったけど…。
それを手に取って固まった。
エロ雑誌!
…こんなの見てんだ?へぇぇ~~~!
ぴきっと如の顔が引きつった。
中を見れば女の子の裸…。
なんだよ。普通に女の子の方が敦は好きなんじゃないか。
ふぅん…。
イラッとしたのに自分にも苛立つ。
「ねぇ、ゆ………」
机から振り返った敦が如が手にしてるものを見て青くなった。
「ええと……ゆきちゃん…?……あの、それ…」
「敦、こんなの見るんだ?へぇ~~~」
にっこり笑ってやる。
「いや、ソレ、俺んじゃねぇから…クラスのヤツが……」
「でも枕元にあったし?見てんでしょ?」
「……そりゃ……けど……」
だらだらと敦が冷や汗をかいてるのが目に見える。
「あの、ゆきちゃん………怒ってる……?」
「なんでぇええ?別に俺が怒ることじゃねぇ~し?」
「………怒ってんじゃん」
「怒ってねぇって言ってんだろ!」
ばしっと本を敦に投げた。
「てっ!ほら、怒ってんじゃん」
「…怒ってねぇ」
ぷいっと壁際を向いて敦に背を向けた。
イライラする。
「ゆき~~?」
返事なんかするか!
敦がはぁ、と溜息を吐き出して近づいてきたのが気配で分かる。
「ゆき」
ぎしっとベッドに腰かけた。
なんだよ、女の子の方がいいんだろ。
そんでなんで男の自分なんかに好きとか言うんだ?
わけわかんねぇ。
「ゆきちゃん…?」
こんなの見て敦はヌくのか?
如はベッドにうつ伏せになって顔を敦から見えないようにした。
敦を見たくない!自分の顔を見られたくない!
「コレほんと俺のじゃねぇよ」
敦が如の背中にそっと触れてきた。
びくっと思わず如の身体が震える。
「如」
敦が如の項に唇を這わせてきた。
「な、なにしてっ!」
思わず振り返ると顔を両手で挟まれた。
「…………ゆき、泣いて…んの?」
「泣いてねぇ!」
目の前に敦の顔があった。
泣いてない。けど…泣きそうにはなってる。
なんでだよ?
「敦のくせにっ!」
「…はいはい。ごめんね?」
「なんだよ!それ!」
くすと敦が笑ってるのがムカつく。
「ホント可愛いんだから…。はぁ…」
勘弁してよ、と敦が如の額に自分の額を合わせた。
キス、ではないらしいのに、ほっとして、そして残念だと思ってしまって、またうろたえる。
残念って何だよ。
「ゆき?」
くっそ……。
顔が歪んでくる。
「なんだよ……もうわけわかんねぇし」
悔しいのか、ムカついてるのか、なんなのか自分でも分からない。
腕を伸ばして敦の首にぎゅっと抱きついた。
こんな顔敦に見られたくない。
そんでなくても泣いたり、熱出したりとかみっともない顔がここ最近多くてやになってるのに。
「ゆ、き…」
敦がごくっと息を飲んだのが分かった。
「…敦、こんなのでヌくの?」
「……ゆき…何、言って……」
思わず口にした。
だって聞きたかったんだ…。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学