41 如(YUKI)
「ゆき……大丈夫…?」
「……じゃない」
腰は痛いし身体は重いし後ろは疼痛がする。
「だよね…」
よしよしと敦が如の身体を抱きしめて頭を撫でている。
でもその顔はしまりなくて嬉しそうだ。
まったく肩幅も身体の厚みもどうしてこんなに変わってしまったんだろうか。
「……怒って…」
「ねぇよ」
如のことばっかり気にする敦に視線をそらしながら如が答えた。
「責任取るから」
「は?責任ってなに?」
「結婚」
「…………テメー、馬鹿?だからふざけてんだって言うんだ…っ!」
なんで幼馴染でこうなってしまったんだろう?
ちょっと後ろめたい感じもしてしまうけど、だからといって後悔はしていないんだから、やはり、……と如は敦を見た。
「ふざけてねぇんだけど…」
敦が軽くキスする。
「如、寝ていいよ?寝られる?」
「…ん」
敦が隣にいるのに安心する。
自分の部屋であんなに落ち着かなかったのに今は全然違う。
敦の体温が嬉しいとさえ思ってしまうんだから。
好き、なんだろうなと思ってしまう。
「何?」
じっと敦を見てたら敦が聞き返してくるのに如は小さく首を振った。
とろりと意識が沈んでいきそうになった。
「ゆき…」
敦の声が甘い…。
いっつもいっつも小さい頃から毎日へばりついてきてたから、それが普通になってそうじゃないと落ち着かなくなったんだ、きっと。
ピーピー泣いてたのに。
お人形みたいに可愛かったのに。
今は全然変わっちゃったけど、それでもまだ隣にいる。
如が守る方だった敦が図書館でも今日も反対に守るようにしてくれてるのが照れくさい。そしてちょっとムカつくけど。
あ~あ、と如は溜息が出そうになる。
こんな事になっても嫌でもないし、むしろ普通に受け止められている自分が信じられない。
三浦くんに嫉妬を感じたのは自覚したし、敦が自分だけ見てるのは当たり前だとさえ思ってるのがなんだかなぁ、と思いながら如は目を閉じた。
顔を見られて敦に悟られたくはない。
ずっと見てるから敦は如の顔を見て感情を読み取ってしまうだろうし、自分も敦に顔を作れないのは分かってる。
「ゆ、…き…」
すりと敦に身を寄せれば敦が息を飲んで声を詰まらせている。
その敦の腕が如を守る、と言っているかのように如を腕の中に閉じ込めてのに思わず口端が緩んできそうになって如は敦の首元に顔を埋めた。
やっぱり自分にとって敦は特別らしい。
複雑な感情は入り混じっているけれど敦をすでに幼馴染としてだけでなく受け入れていると今更ながら認めるしかない。
「あの…ゆきちゃん?その…ヒジョーにマズイのですが…?」
「…何が?」
「そんな事されたら俺…もいっかいシたくなる…し…」
「無理。我慢しろ」
「……………はい」
ぶつぶつと口の中で敦が我慢我慢と呟いている。
すっかり如の中に朝の動揺はなくなっていた。
朝のは気色悪いだけの事。
でも今敦としたのはそれ以上に衝撃だけど…。
だって敦は弟みたいなはずだったのに。
普通気持ち悪いと思うはずだ。それなのに全然そう思わないんだから。
好きって言って、って敦が言ってたけど…。
分かってるんだろう。
きっと如が自分で分かってないうちから如の中で敦が特別なのを。
でもどうしたって敦みたいにさらりと言うのなんか無理だ。
…絶対!
こんな事してんのも恥ずかしい位だけど、身体ひどいのは敦のせいだから仕方ないだろう。
「ゆき?もう寝た…?」
「…ん…寝る」
「ゆき……好きだよ…」
だから、どうしてコイツは臆面もなくそんな事が言えるんだ?
そしてもう深く沈んでいきそうな意識だけど、敦がキスしてきたのが分かった。
「ゆき…」
敦の声が切ない。
何度も何度も顔のあちこちに敦が触れている。
まるで確かめるように。
バーカ…。
もう来るな、とか触るなとか言わねぇよ。
でも自分から好きだとか言うのはどうしたって無理だと思うけど…。
恥かしくてそんな事言えるはずねぇもん…。
分かってるくせに言えなんて…。
如の事なんて自分より敦の方が分かってるだろうに。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学