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副会長はいじっぱり 42

42   如(YUKI)


 「敦~!如くんいたの~?」
 階下から響く敦のお母さんの声に如がはっと目を覚ました。
 「いいよ、如寝てて」
 敦が起き上がって部屋を出て行く。
 「いたよ!まだ寝てっから」
 恥ずかしいっ!
 敦がDVD見てそのまま寝ちゃったとか言ってるのが聞こえてくる。
 如は敦のベッドに小さくなって丸くなると布団を被った。
 親達はもう出かけるらしい。
 ばたばたと敦の家も如の家も落ち着かない様子なのを感じた。
 そういや、親達4日も帰ってこないんだ。
 それは別にいいけど。
 その間敦とだけ…?
 いや、それも別にいいけど…。
 
 ばたんばたんと車のドアの音が聞こえる。
 もう出発するらしい。
 ゴールデンウィークなのに温泉の宿が取れたらしく敦の親も如の親も楽しみにしてた。
 如と敦を信用しての親達の旅行だけど、まさかこんなんなってるとは思ってないだろうと思うと布団から顔を出せなくなる。
 車が出発した音がする。
 しまった!この間に服着ればよかったと如は後悔した。
 まだ如は敦に服を剥ぎ取られたので真っ裸だ。
 「ゆきちゃん?」
 敦が部屋に戻ってくるけど、顔を布団から出せない。
 「もう親達行っちゃったよ?」
 布団の上から敦が丸まってる如に乗っかってきた。
 「二人っきりだね?」
 言うな!ばか者!
 と声をたてたい所だったけど、顔は真っ赤になってるはずで顔を出すのも声を出すのも恥かしすぎる。
 「ゆき?顔出して?」
 敦が布団を剥ごうとするのを頑なに如は掴んで離さない。
 「ゆき~?」
 だからなんでこんなに敦は余裕なんだ!?
 親に話してる声も普通だったし!
 如だったら無理だ。
 それにもまた腹が立ってくる。
 敦が笑いながらそっと布団を捲ったので顔が出た。
 「ゆきちゃん、おはよ」
 どうもここ最近の敦の呼ぶ<ゆきちゃん>はバカにしてるような響きに聞こえる。
 「…………はよ」
 でも敦の顔をみたら蕩けきったような顔で、如は思わず脱力した。
 「なんだ、この顔は」
 ぎゅっと如は腕を伸ばして敦の頬っぺたを引っ張った。
 「え~?だって嬉しいから。如、起きれる?」
 「………大丈夫」
 多分。
 だから!さらりと聞いてくるコイツが妙に慣れて見える。如なんてどうしていいか分からないのに!
 「パンでいい?食うでしょ?」
 「…食う」
 「じゃ用意しとくから着替えて降りてきて?」
 如はこくりと頷いた。
 いつの間にコイツは服着たんだ?
 そして如が恥ずかしいってのも分かってやがるんだ。
 敦がいなくなったのでのろのろと如は起きだした。
 服どこだ?と眼鏡がなくて見えなかったけれどちゃんとまとめて枕元に置かれてる。
 …敦か…って他に誰もいないけど。
 もぞもぞとそれを着こんで机に置かれてた眼鏡をつけてそっと部屋から出る。
 小さい頃から親同士も仲良しで互いの家は泊まったりが普通で行き来してるから何も問題も違和感もない。
 キッチンの方にいけば敦はご機嫌な様子でフライパンを手にしてた。
 こんなとこは初めて見る、と思わず如は立って見てた。
 「如?座ってていいよ?」
 「え?あ、……ん」
 ダイニングの椅子にそっと座る。
 身体がまだ違和感を訴えるのにほんとにしたんだと今更ながら感じて落ち着かなくなるけど敦は何も変わらない。
 手際よくぱたぱたとデカイ身体で敦が動いてる。
 とてもじゃないけど如はだるくて動けない。
 テーブルに頬杖ついて如はじっと敦の後姿を目で追った。
 コーヒーのいい匂いとパンの焼ける匂い。
 皿に出されたスクランブルエッグはとろとろしてる。
 「どうぞ?」
 「……いただきます」
 敦が全部用意して向かいに座る。
 でかくなったのは身長だけじゃない。
 手も大きい。
 その手がパンをもって齧ってる所を見て如は思わず顔を伏せてスクランブルエッグに手をのばした。
 朝の光が差し込んでて敦の髪が金茶に光ってる。
 ちょっと癖があるふわふわの髪。
 見た目はどうしたってチャラく見えてしまう。
 そうじゃないのは分かってるけど。
 敦のお母さんの髪も同じ感じだけどでも全然違う風に感じるのはどうしてだろう?
 バターが指についてそれを舐めてる敦の口元に思わず如はかっとしてしまう。
 あの手も唇も全部が昨日は如の身体の上にあった。
 どくりと心臓が鳴って息苦しくなってくる。
 見なければいいのにどうしても見てしまう。
 敦なんて毎日見慣れてるはずなのに。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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