44 敦(ATSUSHI)
電話が何回もなって三浦に道順を教える。
まったくもって無粋だ。
せっかく如と二人きりで親もいないのに!
昨日は思いもかけずに如に手を出してしまったけど、如は怒った風でもないし、そこはかとなく色気が垂れ流しになってるのに!
もっとイチャイチャ出来そうな感じなのになんで三浦が来るって言うんだ。
はぁ、と溜息が漏れてしまう。
そしてまた携帯が鳴った。
「ああ?…そっから左に曲がれ。その3軒先。表札出てるから。…ああ」
携帯を切る。
「何?もう着くって?」
「…らしい。如……ごめんね?」
「………何が?別に?」
如はだるそうにしてソファに身体を預けてた。
「如…」
如はずっと顔が赤くなったりして動揺してる。
けど、それが可愛くて。
くそ、早くカイチョー迎えに来いって!と敦は願うしかない。
ピンポーンとインターホンが鳴ったので敦は玄関に向かった。
「おう」
がちゃっとドアを開けるとどん!と身体に何かがぶつかってくる。
「柏木~~~!どうしたらいいの!?」
「はぁ!?テメーの事なんて知らねぇよっ!」
「ひでぇ~!」
腹にしがみつかれたってイラッとしかしない。
貴重な如との時間を邪魔しやがって。
「とにかく入れ」
ここで三浦を逃しても後から大変になりそうで、仕方ないから家に入れる。
「だって!和臣が!」
「だからっ!なんで会長との事で俺んとこ来るんだよ!?ああ?巻き込むな!」
「だって!…………あ……」
リビングまで行くのに三浦は敦にへばりついたままだ。
「…おはよう」
「おはようございます…二宮副会長」
三浦が小さな声で如を見て挨拶した。
あれ?また如が無表情になってる。
さっきまではわりと機嫌悪くなさそうだったのに。
「とにかく座れ!コーヒーでも入れてくるから。如もいる?」
「いる」
そこには如は頷いて答える。
敦はコーヒーを入れて如の隣に座る。
三浦は向かい側。
「で?なんだってんだ?」
「…和臣が……突っ込もうとするんだ」
「あ?突っ込む?何を?」
「何って……ナニ、を…」
三浦が真っ赤な顔してるのに思わず敦は如と顔を合わせてしまった。
その如も仄かに顔を赤くしててやべ~と敦は焦ってしまう。
「…そんで、ソレ嫌なわけ?」
三浦は微妙な敦と如の態度には全然気付いてないらしいのが救いだ。
「……嫌、ってんじゃないけど…。だって、さ……怖いし」
如がはぁ、と浅く溜息を吐く。
「三浦くんは和臣の事がそんなに好きではないんじゃないの?」
「え?」
三浦がきょとんとして如を見た。
敦も如が何を言うのかと思って如を見る。
「だいたいいっつも和臣から逃げようとしてるでしょ。逃げ場所は敦だし。和臣の前だと騒いで逃げて。敦の方好きなんじゃないの?」
「はぁ!?」
「ない!!!」
如は何言ってんだ?敦は呆れ、三浦は首をぶんぶんと振っていた。
それになんか如が怒ってる…?
顔が無表情で恐くなってる。
「如…?」
敦が声をかけると如がはっと口を押さえた。
「敦…和臣、来るんだろ?」
「え?ああ、すぐ来るって」
「なんで!?和臣が!?やだっ」
「三浦くん」
三浦が立ち上がってまた逃げようとしたんだろうけど、如が静かに低い声で三浦を呼んだ。
「ここにいなさい」
冷たい視線で如が三浦を睨むと三浦はしゅんとして大人しくもう一度座りなおす。
「ええと……ゆき、ちゃん…?なんか怒ってる、のかな?」
「ああん?………別に」
ふいと如が視線を逸らせた。
どうやら怒ってるらしいけど、敦にではないみたいだ。
三浦にか?
いや、でも怒ってるのとも違うか?
「敦、俺の携帯持ってきて。テーブルに置いたままだった」
「ああ、うん」
敦がダイニングテーブルに置きっぱなしだった如の携帯を持ってくると電話をかけ始める。
「もしもし和臣?あと何分位で着く?……ああ、うん。分かった。あ、いるの敦ん家だから。…うん、じゃ」
「如、会長って家知ってるの?」
「あいつの頭の中には住所とか全部入ってるらしいからね。あと15分ほどで着くらしい。いい?三浦くんははっきり和臣に言って。嫌なら嫌だと言えばいいだろう?好きなら怖くたって出来るはずだ」
如の言葉に敦が目を見開いた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学