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Merry Christmas 前編

 世の中はクリスマスモード。お店にはイルミネーションが点灯し、街にはクリスマスの音楽が流れている。
 施設にいた子供の頃はツリーを飾られたりしていたけど、正直、瑞希には関係ない事としか思えなかった。
 きっと普通の人は家族で幸せな時間を過ごすのだろう。そんなの瑞希に訪れるはずはない。
 ずっとそう思っていた。
 そんなクリスマスに浮かれたような街中を瑞希は宗と住んでいるマンションに帰るために駅に向かう足を急がせた。
 クリスマスもそうだけど、なんといっても宗と出会ってもう1年になるという事の方が瑞希には重要だった。
 去年の12月23日だった。
 宗を車で引っ掛けてそのまま宗を瑞希のボロいアパートに連れて来て、それからずっと一緒にいる。
 今住んでいるのはもうボロのアパートじゃなくなってしまったけれど。

 いつ宗に飽きられるだろう、愛想つかされるだろうと思っていたけれど、未だに宗は一緒にいてくれる。
 駅に向かって歩いている途中にプレゼントの箱を抱えた人を見た。
 「あ……」
 世の中クリスマスプレゼント、なんてものを用意するんだ。
 いつもなんでも宗にもらってばかり…。
 誕生日に明羅くんと一緒に選んだキーホルダーを宗も使ってくれている。それを見るのが嬉しい。
 何かプレゼント…。自分には関係ない事と思っていたけれど…。
 まだ宗に今から帰るメールはしてないからちょっと寄り道していこう。
 瑞希は方向を変え、デパートの中に入っていった。
 
 といっても何がいいのか見当もつかない。
 プレゼント用にと色々な物はラッピングされて見本として店頭に並んでいるけれどどれも宗には合わない気がする。
 どうしようか…。
 瑞希の首にはマフラーが巻かれている。これは元々宗の物だったんだけれど瑞希がしてろ、とそのまま瑞希が使ってしまっている。
 マフラー?
 でもこれよりいいものを探すのはちょっと難しい気がする。
 それだったらコレを返して自分のを買った方がいいだろう。
 「うーん…」
 そもそも誰かにプレゼントなんて用意した事もないんだから思い当たらなくても仕方ない。
 うろうろと店の中をうろつけば時間だけが過ぎていく。
 遅くなると宗から今何処にいる?とメールか電話が来そうだ。
 
 「あ…」
 紐の編み上げのかっこいいブーツ。宗に似合いそうだ…。
 でも大きい。こんなの抱えて帰ったら何だ?と絶対聞かれる。
 それを手に取ってみた。
 宗はエンジニアのブーツは持ってたけどカジュアルでもこういうのは見てない。
 履かない、かな…?
 でもダウンを着てジーパン履いてこれを崩して履いたら絶対かっこいい。
 値段を見たらけっこういい値段。自分になら絶対無理!といって買わない値段だけど宗にならきっと普通の値。
 財布にいくら入ってたっけ?と思わず考える。
 マンションに一緒に住んでいるのに全然瑞希はお金を出していない。宗がいらないと頑として受け取ってくれないから。食費でいくらか出す分とあとは自分にかかる分だけ。余計な物は買わないし給料のお金が減らない。
 宗は会社の設立を考えているし、とにかく足しになるかは分からないけれど瑞希は貯め込んでいた。
 財布を出して見てみれば値段にギリ間に合う位入っている。
 電車は定期があるし何も問題はない。
 「すみません…サイズを…」
 店員に声をかけて宗のサイズを出してもらいラッピングまでしてもらった。
 それはいいけどどうしよう…。
 箱がデカイ。
 このままこれを持って帰られない…。
 やっぱりどうせだったらプレゼントとして渡したいし、驚かせたいと思ってしまう。
 家のいつも利用する駅でもコインロッカーがあったはず。
 そこにとりあえず入れておこう、と決めて宗に今から帰るね、とメールした。


 「おかえり。問題か?いつもより遅い」
 「え?ううん。何も問題ないよ……あの、宗…?」
 「うん?いいだろ?ちょっとだけな。気分で」
 帰ってきた瑞希の目に入ったのはリビングに飾られたクリスマスツリーだ。
 そんなに大きくはないけど、十分目に入る。
 「なんとなく……ダメか?」
 宗が困ったように頭をかいている。
 「ううんっ!びっくりしただけ!……家の中にツリー…」
 瑞希は靴を脱いでツリーを眺めた。
 幸せの象徴がある。
 去年も一応は宗と一緒は一緒だったけど…。
 ソファに寝転がっていた宗がツリーを嬉しそうに眺めていた瑞希に近づいてきた。
 「なんだ、そんなに喜ぶならもっと大きいの買ってくるんだった。いい年していまさらだしな、と思って控えめにしたんだけど」
 「ううん、これでいいよ。あんまり大きいのいらない」
 電飾が光ってる。それだけでなんでこんなに心が嬉しくなるんだろう?
 宗が隣にいてくれるからだ。
 「ありがとう」
 これは瑞希のために宗がわざわざ用意してくれたんだと分かる。
 「……いや」
 宗が頭を搔いていた。
 
 
 「23日の夜は外に食べに出かけるから。24日は瑞希仕事だろ?俺が外で買い物して家で。…でいいか?」
 「………うん」
 着替えてきた瑞希に宗がなんでもないように雑誌を眺めながらそう言ってきた。
 ちゃんと23日で1年というのも分かっているんだと瑞希も嬉しくなる。
 「宗」
 ソファに横になっている宗に抱きついた。
 「全部、ありがとう」
 「……全部?」
 宗がくっと笑った。
 「うん。全部」
 嬉しいのも幸せなのも宗がいてくれるからだ。
 

 いいけど、あれをいつ渡すかが問題だ。
 23日?24日?
 それにどうやって持って帰って来る?
 どうやって渡す?
 くるくると頭の中で疑問符ばかりが舞っている。
 「瑞希」
 「え?あ、何?」
 「……気がそぞろだな。何かあったのか?」
 宗が瑞希の用意したご飯を食べながら怪訝そうに瑞希を見ていた。
 「ううん。何も」
 瑞希が答えると宗の眉間に皺が寄った。
 「何でもないよ?」
 そしてリビングのぴかぴかしてるツリーを眺め、それを見ると瑞希の顔は自然に綻んでくる。
 はぁ、と宗が溜息を吐き出して苦笑した。
 「?」
 「……ま、いいや」
 「?」
 何が?瑞希が首を傾げた。

 
 23日。
 休日で仕事は休み。
 コインロッカーに預けたものは24日に仕事の帰りに持って帰って来る事にした。
 ずっとコインロッカーの鍵は持ったまま。
 日に何度もポケットの中を確かめる。
 「……瑞希」
 「うん、何?」
 宗が何か言いたそうにするけれど言葉を飲み込んでいた。
 それがここ何日か続いている。どうしたんだろう?と思うけれど宗は何も言わないし分からない。
 夜は出かけると言ったけれど日中は家でツリー見ながら宗と過ごす。
 なんでもない時間が幸せだ。
 でも宗の様子がおかしい。
 「…宗?どうかした…?」
 瑞希は自分が浮かれているのは分かっていたけれど、宗が難しい顔をしているのに不安になってくる。
 「…いや、なんでもない。……一年、だな」
 「ん……」
 ソファで並んで座っている宗の腕に抱きついた。
 こういう事を自分からするなんて考えられない事だったけれど、宗はそれを振り解かないしさらにいつも肩を抱き寄せてくれる。
 そしてキス。
 一年目の記念だ。
 誰かと一緒に幸せな時間を過ごす事が出来るなんて考えた事もなかった事だ。
 「宗…ありがとう…。俺…宗が好き」
 「ああ。俺もだ。……どうしようもない位瑞希が好きだ。…ホント、ヤバイと自分でも思うけど…」
 「ヤバイ?」
 んん?と瑞希が首を捻る。
 「いや、なんでもない……」
 宗が苦笑している。どうしたのかな…?
 「瑞希…」
 宗の手が瑞希の服の下にもぐりこんでくる。
 「え…そ、宗……」
 「嫌か?」
 嫌なわけないけど…。昼間、からって…。
 「夜は外で食事だしあとお前は今日何もしなくていいから…ダメか?」
 なんか宗が不安気?何で?
 「ダ、メ…なはず、ないでしょ……」
 「瑞希」
 宗が瑞希の首筋に顔を埋めてくる。宗の熱い息遣いが瑞希の肌をすぐに戦慄かせた。
 

 昼間から、というのはちょっと、いや、かなり恥ずかしいけれど、何となく宗がいつもと違う様子なのに瑞希は宗を気にした。
 宗を気にしたけれど、表向きはどこが変という訳でもなくて、宗に案内されるまま夜食事に連れて行かれる。
 瑞希が決して入ることはないだろう高級なドレスコードのあるような店。でも個室だったので安心した。ホテルの上階で眼下には光の渦。
 二人だけの限られた空間、夢の様な時間だった。
 でもそれだけで帰ってきて、お風呂入って、瑞希は明日仕事だからと軽くキスされてオヤスミなさい。
 なんかちぐはぐな感じがした。
 でも宗にはなんとなく聞けなくて瑞希はただ宗の身体に抱きついた。
 どうしたの?
 何が変ってどこが、とも言えなくて瑞希まで不安になってきた。
 宗の腕は瑞希をいつも抱きしめてくれている。
 ぎゅっと宗に縋った。
 「…ん?どうした?」
 宗の低い声が瑞希の耳に響く。
 「……宗」
 「…明日も仕事だろ」
 「ん」
 だけど…。
 なんか寂しい…。
 昼間にされたけど、それだってなんかいつもと違った。
 まるで確かめるような感じの行為だった。
 欲しい、じゃなくて…。
 欲しくなくなった、のだろうか…?
 飽きた…?
 でもそんな事聞けない。
 
 

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