46 如(YUKI)
「如、だいじょぶ?」
「身体だりぃよ」
階段の下で敦が聞いてきたのにそう返事した。
面白くなかった。
なんで三浦くんは敦に抱きつくんだ?
そしてなんでコイツはそのままにさせておくんだよ?
「敦」
「ん?」
如は敦の首に腕を回して二階までつれてけと言えば敦は嬉々とした声をあげて如を抱き上げた。
「如、何もしなくていいから」
「そう…?」
「そう!……いいけど、あの、さ…なんか怒ってる?俺なんかした?」
「………いいや、別に」
全然コイツは気付いてないんだ。
三浦くんに抱きつかれてるのが嫌なのに!
全然!
「怒ってはない、けど…。でも何かは何かだよね?言ってくんねぇと分かんねぇよ」
言えるか!ばか者!
「敦」
「ん?」
「…バーカ!」
そして首を絞める様ににぎゅっと抱きついた。
「ゆきちゃん、苦しいんだけど?」
「知ってるよ」
敦の髪が如の頬に触れている。
全部敦は如のモノなのに。
さっき三浦くんが敦に抱きついてるのを見て苦しくなった。
三浦くんとはなんでもないって分かってるのに…。
こんなの自分がバカだ。
「バカ…敦のバーカ」
「…ゆき~?なんだよ…?俺、なにした…?」
「なんでもねぇって言ってんだろ」
ぎゅっと抱きつけば敦が背中をとんとんと叩く。
「ゆきちゃん?」
「……なんでもねぇ、って言ってる。全然分かってねぇじゃん…バカ…」
敦が黙ってそのまま部屋に如を運ぶ。
敦が如の身体を下ろしたのはベッドで、重い身体が横になれたのにほっと如は息をついた。
「如…」
敦が如の頬を両手で挟んでじっと見下ろした。
「言って?何?」
「なんでもねぇ、って言ってんだろ」
「何でもなくないじゃん」
絶対言えない。
如は口を噤んだ。
すると敦は諦めたように溜息を吐き出した。
「三浦が来たから怒ってんの?」
「は?そんな事で怒るか。…つぅか怒ってねぇって言ってんだ。……怒ってるんじゃねぇし……」
ついと如は敦から顔を背けた。
そう、別に怒ってるんじゃない。面白くないだけだ。
「ほんとに怒ってんじぇねぇって。それより…あいつら大丈夫か?」
ごまかすように言えば敦は嘆息した。
「………さぁ?」
そして敦が如の顔から手を離しながら答える。
「ほんっと迷惑!……迷惑は迷惑なんだけど、如…三浦に言った事分かってる?」
「何を?」
「好きって言えとか、好きなのにエッチも出来ないのか的事言ってたじゃん?」
「………それが?」
かっと如は顔を赤らめた。
「俺には?如からないの?」
「ない」
「ひでぇ……。ま、いいけど。で、さっきは何が如の気に障った?」
まだ聞くか。
「だって俺が知らないで如の事怒らせるなんてヤだろ」
「…怒ってるんじゃねぇって言った」
「でも、何か気になってる、でしょ?如が話すまで何度でも聞くからね?」
「怒ってねぇって!」
「怒ってねぇのは分かってる。でも何かが如を面白くなくしてんだろ?」
あ、それは分かってるんだ。
如は思わず黙ってしまった。
「…ほらね。で?何?早く言っちゃって?聞き出すまで本当にずっと聞くよ?」
敦がにっこりと笑った。
これは確かに聞き出すまでしつこそうだ…。
如は観念する…。
こんな時互いの事が分かりすぎる位分かってるから性質が悪い。
「お前がっ…」
何?と敦が表情で先を促す。
「抱き、つかれて…っから………!」
如は真っ赤になって敦に背を向け、壁際の方を向いた。
「え?」
敦がきょとんとしてるのが分かる。
「…………ソレ、三浦が…?」
他に誰がいるんだよ。
「ゆき」
がばっと敦が背中から抱きついてきた。
「分かった。二度とさせねぇから」
「……別に」
何が悲しくてヤロー相手に嫉妬なんてしなきゃねぇんだよ。
…女だったらいいのかって言ったらそれだってやだけど。
「ゆき…」
敦が嬉しそうな声で如を呼んでる。
「ゆき、こっち見て?」
敦の手が如の頬をつかんでぐいと敦の方に向けさせる。
「好きなの如だけだよ?あんなのなんでもないんだから」
「分かってるっ!だから言うのヤダって言ってんだろっ!」
「でも俺は嬉しいけど?如も俺の事好きって事だろ?」
「言ってねぇ!」
「ほんと素直じゃないね」
そんなの知ってるんだろうが。
バカ。
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