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熱視線 間奏曲~インテルメッツォ~4

 「明羅進学どうすんの?」
 「…どうしよう……?」
 買い物を終えて帰りの車の中。
 やっぱり全部怜さんが支払って、明羅は申し訳ないと思ってしまうのだが。
 ピアノ科はもう考えていない。
 怜が傍にいてくれるならば十分だと思えるようになった。
 あんなに焦がれて焦がれて、だったのに。
 今はこんなに落ち着いている。
 明羅はふっと笑みが零れた。

 「なんだ?」
 「え?毎年今の時期って大変だったのに今年は暢気だな、と思って」
 「?」
 何が?と怜が分からないと表情が言っていた。
 「毎年、怜さんコンサートするのって夏休み入ってすぐ位でしょ?もう怜さんの音が頭に鳴り響いて消えなくて、毎年夏休みはピアノに向かってた。朝から晩までずっと。どこにも出かけないで…。あ、宿題とかは夜中にちゃんとやってたよ?でもすぐ朝になってまたピアノ。夏休みの間中ずっとそれだった。毎年!」
 最後はちょっと恨みを込めた。
 「…それは、…すまん?」
 怜が困惑したように言って、語尾を上げた。
 「ううん。俺が勝手に悶々としてただけだから…。俺にはどうしたって出せるわけないのに諦められなかったから悪あがきしてたんだ…」
 怜が明羅の頭を撫でた。
 これが好きだ。

 「それで欲しい、か」
 「ん…。だって!本当に俺が弾きたいように弾くんだもの!聴きたい!って思ったって1年も待たなきゃないし!」
 「…それは、すまん」
 怜が苦笑いしていた。
 「ほんとだよ」
 それが毎年毎年繰り返されたのに、今年は違う。
 進学か…。どうしようか。
 「怜さんは音大…」
 「じゃない。普通に大学入った。すぐ辞めたけど」
 「そうなの?」
 「そ。普通の大学行ったって意味ないだろ?レッスンしてもらって色んなところ渡り歩いていた」
 へぇ、と明羅は興味津々で話を聞いていた。
 「お前は日本じゃ学ぶ事ないと思うぞ…?」
 「そ…う?」
 「ああ。あんな曲作れる位ならな」
 「そう、かなぁ?」

 なんで怜さんの前だと素なんだろうか?口調だって絶対学校とかと違う。
 明羅が自分でそう思っていたら怜がじとっと明羅を見ていた。
 「お前変わりすぎ」
 「……ん。今自分でも思ってた。でも別に変えようって思ってるわけじゃないんだけどな…」
 「女王様でも甘ったれでも俺はどっちでもいいけどな」
 くくっと怜が笑って言う言葉に明羅はどきっとして顔が火照ってくる。
 「俺だって…燕尾服でびしっとしてるのも、無精髭でもどっちでもいいもん…」
 「…それ誉めてないだろ」
 そんな他愛ない言葉でさえ甘く聞こえる。
 どうして…?
 怜の目が優しいのにどきどきするし、甘えたくなる。

 なんでこうなってしまうのか。
 クラスの男達は彼女がどうの、って言ってても明羅には興味がなかった。
 それよりも求めたのは二階堂 怜の音だった。
 ずっと、小学生の時からだ。
 「俺、ずっと…怜さんだけ、…だったのかなぁ……?」
 怜が目を瞠って明羅を見た。
 彼女なんかいらなくていい。
 やっぱり怜さんだけが欲しい。
 どうしよう?
 怜が明羅を見てくれているのに気持ちが溢れてしまう。
 音だけだったはずなのに、ただこうしているだけで幸せだと感じてしまうのはどうしてなのか。

 ジュ・トゥ・ヴ…

 怜が弾いてくれたのを思い出し、明羅は照れくさくなって手の甲で口を押さえた。
 そしてキスもされた。
 怜さんも同じ気持ち…?
 好きだ。
 何もいらない位。
 学校でだって家でだって怜に対するような口調なんて出てこない。
 怜をちらと見たら怜が明羅を見ていた。

 「な、何?」
 「いや?」
 怜が口角を上げていた。
 「参ったなぁ、と思ってただけだ」
 参った?
 「どうしたらいいか…。色々考えるのが多いな、と」
 「何を?」
 「お前にいいようにしてやりたい、かな…」
 「?」
 何をだろう?
 「曲だ。曲」
 「えと、昨日の?」
 「そう」
 怜は前を向いて車を走らせた。
 「…お前、さらに曲作れるか?」
 「それは出来るよ。怜さんの音があるといくらでも出てくるから」
 「……それも殺し文句だろが。…と、それは置いといて」
 怜は一人で考え込んでいた。
 
 

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