55 如(YUKI)
三浦くんの問題が片付いて昼休みはまた図書館に行くようになっていた。
授業が押して急いで弁当を食べて図書館に向かう。
だいたい敦は先に来ていて指定の所で待っている。
別に何するわけでもないのに。
ただ顔を合わせてこそりと話するか本を読んでるだけの時間だったけど、学校で誰にも邪魔されない二人だけの時間というのがなんとなく照れくさくて面映かった。
そっと誰にも分かられないようにと気をつけながら如がいつもの場所に近づく。
棚から顔を出したら敦は一人じゃなかった。
「…っ」
声をかけようとしたら椅子に座ってた敦にもう一人、五十嵐っていう子だ、が座ってる敦の肩に手をかけていた。
何すんだ!?何敦は好きにさせてんだよ!
如はまたイラッとする。
昨日分かったと言ったのに全然分かってねぇじゃねぇか!と敦にまで怒りたくなってくる。
その五十嵐が敦の顔の顔を近づけていくのに我慢出来なくなって如はつかつかと背後から近づいて五十嵐の肩に手をかけた。
「何してんの?」
屈んだ状態の五十嵐が後ろを振り返って驚愕の表情を見せたのに如が見下ろす。
ちらと敦を見れば居眠りしてるようだった。
キスされたのか?
後ろからだったから事前か事後か分からない。
したようにも見えたし、してないかもしれない。
五十嵐は慌てて敦から離れた。
「敦は俺のモノだから邪魔しないでくれる?なんかちょろちょろしてるみたいだけど?敦が君になんか靡くはずもないから」
傲然と如は五十嵐を見下ろして言い放った。
もうずっと鬱憤は溜まっていた。
くいっと顎を動かして去れ!と五十嵐を睨むと五十嵐はぱたぱたと去っていった。
それにほっとして敦を見ればのうのうと眠っている。
「この…バカっ!」
小さく毒つくと敦の手が伸びてきて如を掴まえて引っ張られた。
「!」
「如」
敦の膝の上に座らせられた。
「テメ、起きてたのか」
「当たり前でしょ」
「何好きにさせてんだよっ!俺がヤダって言ってんのに!触らせるんじゃねぇよっ!」
声は小さく囁く位だ。
「やだった?」
「…ったり前だろ、このバカ!」
敦の薄茶の瞳が近い。額をつけるようにしてこそこそと話す。
その敦の後ろ頭にぐいと手をかけて如は自分から唇を重ねた。
これは俺のだ。
敦が驚いたように目を見開いたのが一瞬見えたけど、あとは自分が目を閉じて敦がどんな顔しているか分からない。
触らせんじゃねぇよ…。
「……ぅ…ん」
敦の舌が如の口腔に入ってきてさらに貪ろうとしようとしたのに如は頭にかけてた手で敦の髪を引っ張った。
「ててっ…」
「ば…っ!この!何する!」
声は小さくっ!
「だって如からキスしてくれたから…」
蕩けそうな敦の顔に真っ赤になる。
「お前……されてねぇだろうな?」
「あん?キス?されるわけないでしょ」
「……ならいいけど」
「ゆきちゃん」
ぎゅうっと敦が如を抱きしめてきた。
「五十嵐を押さえてケリつけようとしたんだ。だって如がやだって言ったから」
「だからって触らせるんじゃねぇ!お前は全部俺んだから!」
「……ゆきちゃん、熱烈だけど…?」
「茶化すな!……ヤダって言っただろ」
ぐっときて瞳が潤んできそうになった。なんでコイツは平気なんだよ。
「如っ!ごめん…」
敦が気付いて如の顔を覗きこんだ。
「…なんだよ…。俺ばっかりバカみたいだろ。敦は全然平気そうなのに」
「バカじゃないよ…。嬉しい。如は俺の事なんてそんなにそんなに好きじゃないのかな~?絆されてるだけかなぁって思ってたから」
「んなわけあるかっ」
敦が如の額に顔をつける。
「…眼鏡、邪魔だな」
「なきゃ見えねぇんだから仕方ねぇだろ」
如は顔を見られなくて敦の首に腕を回して首元に顔を埋めた。
「如…好きだよ」
「……ん」
言ってくれた…。
それを嬉しいと感じた。
如も言ったら敦は嬉しい、と思う…んだろう。
敦が言って、と催促する気持ちを分かってしまった。
今まではそれをただ聞いてただけだけど…。
きっと気持ちの温度差があったのかもしれない、とも思う。
今は如だって敦を独占したい位に好きなんだ。
でもさらりと敦みたいに言うなんて絶対出来そうにない。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学