56 敦(ATSUSHI)
如が五十嵐を追い払ってくれたのに意気揚々として教室に戻った。
すぐに三浦がそれに気付く。
「ご機嫌だな?五十嵐現れなかったのか?」
「現れたよ~!でも如が追い払ってくれた」
ぷぷっと敦が笑いながら嬉しそうにしてると三浦も笑った。
「じゃ、もう現れない?」
「分かんねぇけど」
それに好きだよ、と言った言葉に小さく頷いてくれた。キスだって如からしてくれたし!調子づいたら髪引っ張られたけど…。
でも今まではそんな事なかったし、絆されただけだと言ったのにも如は否定した。
どうしよう、嬉しすぎる!と顔はどうしても緩んで締まらない。
「………すっげぇバカ面」
三浦が呆れたように言った。
ほっとけ。
昨日は夜も如の方から部屋に来たし、敦の我慢作戦が功を奏しているはず。
このまま好きまで言ってくれれば完璧だ。
…けど、そこはどうかな~と苦笑が出る。
なんといっても相手が如では楽観できない。
昨日今日の事だけでも破格だと敦は自信を持って言える。
その日の夜も如は敦の部屋にいた。
「だから言っただろ!お前だって図書館で居眠りすんじゃねぇって!」
「だから、あれは本当にしてたんじゃないって」
「触らせるなって言ったのに!」
「あ~…そこに関しては謝るよ。如がそんなにヤなんて知らなかったから。いや三浦の事もあったから知らないわけじゃないけど」
うっと如が黙る。
かぁっと顔が真っ赤になってくのが可愛くて思わずじっと見つめてしまう。
「ごめんねぇ、如」
如が俯いてふるふると震えた。
目を潤ませるほど如がヤだったなんて思ってもなかったのは本当だ。
自分は全然そんな事、触れられる位別に相手の事なんて何ても思ってなかったからどってことなかったんだけど。
「…………ムカつく。じゃあ今度和臣に抱きついてやる」
「はぁっ!?如!!何言ってんの!?」
「ああ?俺は別に和臣の事は友人としてなら好きだけど、何とも思ってない。それなら抱きついても触っても別にいいんだろう?お前は平気なんだろう?」
「んなわけないでしょっ!!やめて!」
何言ってるんだ!?ゆきは!
「お前はいっつも平気なんだ。それを見てる俺がどう思うかなんて全然考えてねぇ…」
如が口を引き結ぶ。
「こんな事言ってるのも最悪だっ!もういい!寝るっ」
如はそそくさと敦のベッドに入って横になると眼鏡を外した。
学校からの帰りもずっと無言で、家に帰ってきてからも後行くから来るなと言われてて大人しく敦は如が来るのを待ってたのだが、来たら来たでこの文句だった。
布団を被って丸くなる如の上から敦は抱きしめた。
「如…」
自分は如が誰かに触られたり抱きついてるのなんか見たらきっと相手を殺してしまいたくなる位に嫉妬するだろう。
今の所如は学校では怜悧な雰囲気でそんな気軽な存在じゃないからそんな事は誰もしないし、会長とだっていつも一歩引いたような距離で全然敦は気にならなかった。
そういえば中学校の時は部活の時でも如に気軽に触るやつ等を片っ端睨んでいたのを思い出す。
元々如の雰囲気が他人を寄せない所があったからそこまでではなかったけど。
そしてもしかして如は同じ気持ちになってる…?
敦の事を好きなのは分かっている。でもそれは幼馴染の延長戦上でちょっと恋愛の方に傾いた位か?と思っていた位で。
三浦の時も取られた感じの独占欲と嫉妬だけかと思ってたけど、どうも違う気がする。
もしかして結構如は俺の事を好き?
「ゆきちゃん…」
布団の上から声をかける。
「本当にごめん…。俺全然分かってなかったし…。如はそこまで俺の事好きと違うかなって思ってた…」
「…誰もお前の事なんか」
「うん……だから。如がそこまでヤなんて思ってなかったし…。俺は如が誰かに抱きついたり触ったりなんて…そんな事ぜってぇさせねぇし。中学ン時のサッカーの試合の時だっていっつも点数入れたときだって一番に如んトコ行ってたでしょ?誰にも抱きつかせない為だし」
「……え?」
如が布団から顔を出してきた。
「俺、自分の事はどうでもよかったから…如だけ守ってればよかったんだ…。だから今も如以外は、自分でさえもどうでもいいと思ってっから、だから多分気にしないんだと思う…」
「………じゃあ、気にしろ!今度同じような事あったら俺は誰かにお前がされた事と同じ事をしてやる!」
それは勘弁して…と言いながら敦は如を抱きしめた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学