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2012.08.19(日)
怜の家に帰って来て買い物した食材を運んで片付けて。
そして怜がピアノに向かった。
楽譜は明羅の作ったソナタだった。
ああでもないこうでもないと怜と言いながら曲を仕上げる。
明羅は別にもう怜の弾く自分の曲になんの不安もない。
「ここの副属和音が秀逸だ」
「そ…?」
「ここも」
あちこちを怜が誉めまくるのに明羅はどうにも落ち着かない。
「…も、いいよぉ。怜さんの好きなようでいいんだから」
恥かしくて明羅はもう降参する。
「なんだ?作曲家様に意見をちゃんと聞かないと」
怜がくつくつと笑っていた。
「いいってば」
怜がしばらく笑ってから笑いを止めた。
「聴きたいのあるか?」
「リストのパガニーニ」
「…何番?」
「全部」
「お前な……」
「どうせ出来るんでしょ…?」
出来ないとはやっぱり怜は言わない。
明羅はいそいそとソファに移動した。
「順番通り?カンパネラは最後か?」
「ん…やっぱりそう、かな」
怜さんのラ・カンパネラも聴いたことない。どんななのだろう…?
リストの曲も手が大きくないと辛いんだよな、と思いながら明羅は自分の手を見た。
すると怜の演奏が始まった。
1番、2番。3番がカンパネラだから飛ばして4番、5番。
パガニーニはそれほど曲は長くない。
ヴァイオリニストだったパガニーニの技巧に触発された曲。
そして6番。これもわりと有名だ。
アルペジオが、分散和音が綺麗だ。
怜さんは優しく弾くんだ…。
思わず明羅に笑みが浮かぶ。
そしてカンパネラ。
鐘の音。
ああ…。
明の心が満たされていく。
これも怜さんの音色は優しい。
音の透明感が空気を清浄していくようだ。
打鍵が軽やかで指に羽でもついているのではないだろうか。
半音階からのトリルもなんでこんな繊細なのだろう。
そして怒涛の最後。
ぞくぞくと明羅に背がやはり戦慄く。
ふぅ…。
怜と一緒に明羅も溜息を吐き出した。
「…よかったぁ…」
明羅の身体が歓喜に包まれた。
「怜さん優しく弾くんだねぇ…」
ほんわかと明羅が言うと怜が笑った。
「そうなったらしい。前はもっと鋭かったはずだが」
「そうなんだ」
怜さんに綺麗系のロマン系で情熱的な曲もいいかも~。
聴けば聴くほどやっぱり明羅の中の音楽も膨らんでいく。
どうしよう、また籠もろうかな…。
「明羅、あっちの部屋片付けるぞ」
「え?」
怜はすでにピアノの蓋を閉めていた。
「お前用に部屋を作ろう」
「え?いや…でも…」
「部屋楽器だらけでごちゃごちゃしてるだろ?開いてる部屋に移動させるから」
「でも、そんな…」
「いい。お前の籠もり部屋だ」
怜さんの家に明羅の居場所をわざわざ作ってくれるの…?
「…お前の着替え入れとくチェストでも買いに行くか…」
明羅の膨らんだバッグを見ながら怜が呟いた。
「れ、怜さん…?」
「ん?」
そんなに、いて、いいの…?
「同棲する?」
ど、同棲って!
ぶわっと明羅の身体が熱くなった。
な、何を言うのか。
でも、それって…そういう事?
「あ、ベッドは買ってやらない」
「え?」
「寝床はあっち」
怜が自分の寝室の方を指差した。
もう明羅は怜の言葉に翻弄されて落ち着かない。
キスはした。
けど…。
ジュ・トゥ・ヴで伝えられた。
けど…。
本当に、…?
明羅は怜が好きだ。
好きなんて簡単な言葉で済ませられないくらい。
そう、好きじゃなくて、必要だった。
明羅を生かすのも殺すのも怜だけのような気がする。
怜に何か言いたくて、聞きたくて、でも口が開けなくて。
結局、楽器を運ぶのを手伝って明羅の部屋作りをした。
散乱していた楽器は別の部屋に運ばれて。
「ねぇ、怜さんの他の楽器も聴きたい」
「いや、他のは聴かせられる位じゃないからだめだ」
「ええ!別にいいじゃない」
「お前がピアノ聴かせるならいいぞ」
「……………」
思わず明羅は黙る。
「お前さ、ハノン、スケール、ツェルニー位はさらっておいた方がよくないか?指、まじで動かなくなるだろ?」
「う……」
「曲作るんだって機械上では出来ても、弾けたにこしたことないだろうが」
それはごもっともで…。
「な?そうしろ。ピアノはあるし」
怜がにこりと満面の笑みを浮べた。