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熱視線 間奏曲~インテルメッツォ~5

 怜の家に帰って来て買い物した食材を運んで片付けて。
 そして怜がピアノに向かった。
 楽譜は明羅の作ったソナタだった。
 ああでもないこうでもないと怜と言いながら曲を仕上げる。
 明羅は別にもう怜の弾く自分の曲になんの不安もない。
 「ここの副属和音が秀逸だ」
 「そ…?」
 「ここも」
 あちこちを怜が誉めまくるのに明羅はどうにも落ち着かない。
 「…も、いいよぉ。怜さんの好きなようでいいんだから」
 恥かしくて明羅はもう降参する。
 「なんだ?作曲家様に意見をちゃんと聞かないと」
 怜がくつくつと笑っていた。
 「いいってば」
 怜がしばらく笑ってから笑いを止めた。

 「聴きたいのあるか?」
 「リストのパガニーニ」
 「…何番?」
 「全部」
 「お前な……」
 「どうせ出来るんでしょ…?」
 出来ないとはやっぱり怜は言わない。
 明羅はいそいそとソファに移動した。
 「順番通り?カンパネラは最後か?」
 「ん…やっぱりそう、かな」
 怜さんのラ・カンパネラも聴いたことない。どんななのだろう…?
 リストの曲も手が大きくないと辛いんだよな、と思いながら明羅は自分の手を見た。
 すると怜の演奏が始まった。

 1番、2番。3番がカンパネラだから飛ばして4番、5番。
 パガニーニはそれほど曲は長くない。
 ヴァイオリニストだったパガニーニの技巧に触発された曲。 
 そして6番。これもわりと有名だ。
 アルペジオが、分散和音が綺麗だ。
 怜さんは優しく弾くんだ…。
 思わず明羅に笑みが浮かぶ。

 そしてカンパネラ。
 鐘の音。
 ああ…。
 明の心が満たされていく。
 これも怜さんの音色は優しい。
 音の透明感が空気を清浄していくようだ。
 打鍵が軽やかで指に羽でもついているのではないだろうか。
 半音階からのトリルもなんでこんな繊細なのだろう。
 そして怒涛の最後。
 ぞくぞくと明羅に背がやはり戦慄く。
 
 ふぅ…。
 怜と一緒に明羅も溜息を吐き出した。
 「…よかったぁ…」
 明羅の身体が歓喜に包まれた。
 「怜さん優しく弾くんだねぇ…」
 ほんわかと明羅が言うと怜が笑った。
 「そうなったらしい。前はもっと鋭かったはずだが」
 「そうなんだ」
 怜さんに綺麗系のロマン系で情熱的な曲もいいかも~。
 聴けば聴くほどやっぱり明羅の中の音楽も膨らんでいく。
 どうしよう、また籠もろうかな…。

 「明羅、あっちの部屋片付けるぞ」
 「え?」
 怜はすでにピアノの蓋を閉めていた。
 「お前用に部屋を作ろう」
 「え?いや…でも…」
 「部屋楽器だらけでごちゃごちゃしてるだろ?開いてる部屋に移動させるから」
 「でも、そんな…」
 「いい。お前の籠もり部屋だ」
 怜さんの家に明羅の居場所をわざわざ作ってくれるの…?
 「…お前の着替え入れとくチェストでも買いに行くか…」
 明羅の膨らんだバッグを見ながら怜が呟いた。
 「れ、怜さん…?」 
 「ん?」
 そんなに、いて、いいの…?
 「同棲する?」
 ど、同棲って!
 ぶわっと明羅の身体が熱くなった。
 な、何を言うのか。
 でも、それって…そういう事?
 「あ、ベッドは買ってやらない」
 「え?」
 「寝床はあっち」
 怜が自分の寝室の方を指差した。
 もう明羅は怜の言葉に翻弄されて落ち着かない。

 キスはした。
 けど…。
 ジュ・トゥ・ヴで伝えられた。
 けど…。
 本当に、…?
 明羅は怜が好きだ。
 好きなんて簡単な言葉で済ませられないくらい。
 そう、好きじゃなくて、必要だった。
 明羅を生かすのも殺すのも怜だけのような気がする。
 怜に何か言いたくて、聞きたくて、でも口が開けなくて。

 結局、楽器を運ぶのを手伝って明羅の部屋作りをした。
 散乱していた楽器は別の部屋に運ばれて。
 「ねぇ、怜さんの他の楽器も聴きたい」
 「いや、他のは聴かせられる位じゃないからだめだ」
 「ええ!別にいいじゃない」
 「お前がピアノ聴かせるならいいぞ」
 「……………」
 思わず明羅は黙る。
 「お前さ、ハノン、スケール、ツェルニー位はさらっておいた方がよくないか?指、まじで動かなくなるだろ?」
 「う……」
 「曲作るんだって機械上では出来ても、弾けたにこしたことないだろうが」
 それはごもっともで…。
 「な?そうしろ。ピアノはあるし」
 怜がにこりと満面の笑みを浮べた。
 
 

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