59 敦(ATSUSHI)
明日明後日は土日で学校は休み。
テストが返ってきて満点だったらもう浮き足立って浮かれてた状態だったろうに1点の為に敦の気分はどん底だった。
帰り道、一緒に歩く如はずっと笑いっぱなし。
迎えにいった如の教室で会長に何をしたんだ?と怪訝しがられた。
如はもうあの答案を見た後ずっと授業中も笑いっぱなしだったらしい。
「……凹むから笑うのやめてくんない?」
「ああ、わりぃ……」
そう言いながら如は敦の顔を見るとまたぷっと吹き出すのだ。
「……もう…いい…」
はぁ、と溜息を吐き出して敦は諦める。
これで如を好きに出来る権利はなくなったわけだ。
自分のミスだけど!
たったピリオド1つのために!
本当に先生も見逃せよな!って感じだ。
そしたら完璧だったのに!
明日も学校も休みでそりゃもう如を満喫出来ただろうに!
敦は恨めしそうに隣で笑ってる如を眺める。
如は楽しそうでいいけど。
きっと安心してんだろうな。
「…ぼんとバカだな。なんでピリオドなんて忘れるんだよ?」
「………知らねぇ。ちゃんと見直したはずなのに」
もう敦はがっくりで何もやる気も出ない。
「ウチ来る?」
「え~…いい。寝る」
如から誘われたけど敦はもうやけっぱちだった。
「ずっとあんまし寝られてなかったし…寝る」
「そ?」
如があっけらかんと自分がまるで関係ないように言うのにますますがっくりくる。
誰の所為で寝られてないと思ってんだよ!ったく。
でもそれは言わない。言ったら絶対如が来なくなるだろうから。
如と別れて家に入るとさっさとシャワーを浴びてしまう。
親達は仕事からまだ帰って来てないので適当に自分で晩飯の支度して、余った分はそのまま親達の分に取っておく。
料理は母親からはかなり重宝されていた。
働いている母親の代わりに飯の支度をすると小遣いが割増ししてもらえるので結構敦もちょこちょことそれが目当てで冷蔵庫にあるもので作ってしまう。
腹も満たされてベッドに横になって、しばらくは悔しさにイライラしたけどいつの間にか本当に眠っていた。
「敦。起きろよ」
「ん……あ?如…?」
暗い部屋に如の声が聞こえた。
「お前ほんとにフテ寝してたの?」
「してたよ」
するしかないでしょう。
「バカだな」
「バカです。ピリオド一つで全部フイにしたんだから」
如はベッドの端に座ってるらしい。影が見えた。
「電気つける…」
「いい!……つけなくていいよ」
「そう?もう寝る時間か?如」
おいで、と敦は如の身体を引っ張ってベッドに引き入れ抱きしめた。
あ~あ…好きに出来るはずだったのに…。
大見得きってイタすつもりだったのに。
今まで溜め込んだ分どこに放出すればいいんでしょうか?
「如~」
おまけして、って言いたいけど言いたくない。
約束は約束なんだから。
それを自分が守れなかっただけだ。
やせ我慢だって分かってるけど、如があんまり敦を信用してない部分があるらしいのでそこは我慢しないと敦の信頼は勝ち得ないと思う。
「敦」
敦が腕の中に如を入れるとまたくすくすと如は笑い始める。
どんだけ楽しいんだか。
「あのね…俺かなり凹んでるんだけど?」
「そうなんだ?」
「決まってんだろ!どんだけ我慢してっと思ってんだよ…」
「我慢しなけりゃいいだろ」
「はぁ?」
如が笑いを止めた。
そして今如は何て言った?
「何?」
もう一度敦は聞きなおす。
「我慢しなきゃいいだろ、って言ったんだ」
如がゆっくりと言った。
「如…?……電気つけていい?」
「ダメ!」
如の焦った声。
薄暗い中で如の表情が見えない。
「だって如の顔見えない」
「見えなくていいだろ。敦」
如が敦の身体の上に跨いで乗っかった。
「ええと…ゆきちゃん…?」
どうしたんだ?
如の顔が近づいてくるのに暗がりでも分かって敦は生唾を飲み込んだ。
如の手が敦の頬を押さえていた。
「敦が頑張ったの分かってる…。別に満点なんかホントはどうでもよかったし。ただあの時は思わずそう言ってしまったけど…。本当は敦が目立つの好きじゃないのも知ってるけど…」
如の唇がすれすれで重ならない。
「ちゃんと……好き、……だから」
「……………はぃ?」
空耳、じゃないよな?
「以上!終了!」
如がわたわたと敦の身体の上からよけて敦の横に背中を向けて横になった。
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