3 翔太(SHOUTA)
「学校はどうだった?」
一条のお屋敷に帰って来て和臣に聞かれた。
「まだ始まったばっかで分かんねぇよ」
和臣は一条の家の自家用車で学校に通ってる。翔太も一緒にと言われたけどそんなの出来るはずなくて断ったので翔太は電車通学。
学費だけでもとんでもない金額なのに!
それが全部一条の家から出てるのだ。和臣の我儘の所為で。
翔太は普通の公立の高校でよかったのに和臣が許さなかった。
翔太の父親も説き伏せ、全部翔太が知らない間に秀邦に進学するように和臣が手配してたのだ。
そんなトコ翔太に似合うはずないのに。
和臣が制服を脱いでいくのを受け取ってハンガーにかける。
「今日は何着る?」
「…そうだな。着物だな」
和臣の言葉に桐の和箪笥から着物を取り出した。
「これでいい?」
「ああ」
和臣がちらと着物を見て頷く。
この屋敷には着物が合う。
そして和臣にもよく似合っている。
漆黒の髪に切れ長の目。
翔太が着たら七五三にしかならないだろうけど。
おかげで翔太は着物のたたみ方だって知ってるし季節に合うものも分かってる。
これもちょっと特殊だよな、と自分でも思う。
「翔太も着替えてきなさい」
「うん…」
和臣は着るのは自分でするのでその間に隣の自分の部屋に行ってぱっと制服を脱いでロンTとジーンズに着替える。
一条の広い屋敷内にある離れに住んでるのは和臣と翔太だけ。
掃除の人とか和臣に用事ある人は来るけど基本は二人だけだった。
小さい頃からずっと。
今はもう全然平気だけど一番初めなんか和臣から離れられなかった。
…恐くて。
木々が風で揺れて音を出しただけで恐かったし、月明かりが障子に射すのも恐かった。
おまけに和臣がおどしてきたんだ。
淡々とした顔でここにはお化けがいるんだ、と。
だから僕から離れないように、と。
翔太はそれを信じきって屋敷にいる間は一時も和臣から離れられなかった。
あれはいくつの時までだっけ?
一番恐かったのはトイレ行く時だった。
さすがに中までは一緒にいられなくてドアの外で待ってもらったり待ってたり、それが恐怖で仕方なかった。
それでも慣れてくるもので自然、陽が出てれば平気になってくる。
だってお化けなんて出なかったし。
でもその時の刷り込みでまだ夜はちょっと恐い時がある。
何も感じない時は平気になったけど、一度恐怖を思い出すともうどうしようもなくなって和臣に助けを求めてしまう。
お風呂も怖い一つだ。
それも和臣が髪を洗ってるとき後ろに誰か立ってお前を見てるかも…なんてべたな話をされて。
今だったらへっ!と思うかもしれないけど、それも刷り込みで恐怖を覚えてしまえば和臣を思い切り呼んでしまう。
和臣は翔太に恐怖を植え込んだのが自分という自覚があるからなのか知らないけれど、そうなった時には必ず一緒にいてくれる。
そん時の和臣は好きだ。
だって優しいから。
うん、きっと自分が悪いって思ってるから、だよな?
面倒じゃねぇのかな、っていつも翔太は思う。
いつどこで恐怖が襲ってくるかわからないのだ。
今平気でも一瞬でその恐怖が甦ってくるといてもたってもいられなくなって和臣の傍にいたくなる。
夜限定だ!
昼間は、明るい時はもう平気だけど。
「友人はできたのか?」
「え?あ、ああ!あの髪茶色い柏木!」
「………ああ」
和臣が眉間に皺を寄せた。
「何?なんかダメ?」
「…いや、そうじゃない」
「朝、話してただろ?でもすぐ解放されてたね?」
「ああ。あれは天然らしいからな」
「ええ!それであの明るい茶色…?」
へぇ、と純粋に翔太は驚いた。
「ハーフとかってわけじゃねぇの?」
「違うらしいな」
和臣はなんでも知っている。一度頭に入れた情報は忘れないでずっと頭に残ってるらしい。
そんなの疲れるよな、といつも翔太は思ってしまう。
その和臣の脳みその100分の1でも翔太にあればきっともう少し勉強を覚えられただろうに。
「和臣と同じ位身長でかいよね!」
「……そうだな。目線がほぼ一緒だった」
和臣の部屋も和室。
というか一条の家では洋室を数えた方が早いのだ。
当然隣の翔太の部屋も和室だ。
自分にはどうも合わない感じはするけれどもう10年も住んでいればしっくりときていた。
テーマ : 自作BL小説
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