4 翔太(SHOUTA)
しかし着物姿の和臣はかっこいい、と翔太はちらちらと視線を和臣に向ける。
和臣の雰囲気にも家にもどれもが合っている。
秀邦の学ランもかっこいいけど、やっぱり和装の方が和臣にしっくりきてると思う。
普段より何割増しかでかっこよく見える。
なんで好きになっちゃったんだろう…。
もう何もかもがどきどきしてどうしようもないんだ。
いつから…?
意地悪なのに。
翔太が恐くてパニクってる時はまぁ、優しい、けど。
とにかく和臣にくっついてないと恐くて仕方ないから、そん時に意地悪されてたらきっと好きになんかなってなかったと思う。
でも和臣は翔太が恐がってる時はとりあえず意地悪はしないし言わないし好きにさせてくれている。
きっとだからだ。
いつでも恐さから救ってくれるのが和臣だったからきっと好きになっちゃったんだ。
「副会長って…美人さんだったんだね…」
朝、隣に立ってる所を見て翔太は打たれてしまった。
去年から和臣の学校の中の話に出てくるのは二宮副会長の話ばかり。
その人を今日始めて見たけどあんなに整った綺麗な顔してると思ってなかった。
二宮副会長も和風な感じだ。和臣の隣がすごく似合ってた。
眼鏡のせいかキツく見えるけどきりっとしてる。
「美人…?ああ、そう、だな…。そういえば俺と出来てるとか噂があるらしい」
「え?」
「わりと一緒にいる事が多いしな」
くすっと笑った和臣の顔は満更でもなさそうで翔太はそうなんだ、とうな垂れた。
そうだよな、そう見えるよな…。
二人で並んで何かを話してるところは完璧な一対に見えた。
翔太なんかとても近寄れない雰囲気だ。
だいたい生徒会なんてものに無縁だ。
和臣にしたら学校の生徒会なんて遊びの延長なんだろうけど。
「翔太、朝は一緒に車で行くように」
「嫌。だって和臣出るの早いでしょ。俺はいい。ゆっくり行く」
はぁ、と呆れたように和臣が溜息を吐く。
「同じ学校に行くのにわざわざ別で行く方が無駄だと思うけど?」
「…いいのっ」
そうかもしれないけど!
でも会長様と一緒の車って一体なにって絶対勘繰られる。
勘繰られる…って、翔太は和臣の一体何なのだろう?
雇い主…。
というのも今は違う。将来的には和臣の近辺の何かにはなりたいけど、今は別にそうじゃない。
学費だしてもらってるのは和臣の意向だけど一条の家。
援助される人?
それだって翔太が頼んだんじゃない。
どちらかというと和臣のお父さんお母さんに頼み込まれたんだ。
そして翔太のお父さんまで和臣が望んでるからって、翔太の意思なんてなかった。
それでもずっと公立の学校に通ってた翔太はずっと秀邦だった和臣の学校での姿というのを見た事がなかったのでそれはちょっと嬉しい。
へへ、と思わず笑いがでると和臣がはぁ、と翔太を見て溜息を吐き出した。
「お前が学年1ね…」
和臣が頭を抱えた。
「?」
なんの事?
一条の家には喧騒とした雰囲気がないからゆったりとした時間がながれる。
着物姿の和臣に日本庭園、畳の部屋。
どれもが学校での日常が嘘のように感じられる。
「和臣、お風呂は…?」
「やることあるからお前先に使っていい」
「…分かった」
和臣は大きい座卓に向かって何か書き物をしていた。
それが学校のものなのか、会社の物なのか翔太には分からない。
会社の話はされてるけど難しい話は何度和臣に説明されても理解できないから。
仕事モードに入れば和臣は動かないので先に風呂に入る事にする。
離れには小さい風呂がついていて本当に母屋から独立していた。
渡り廊下一つで母屋と行き来は出来るけど、食事の時以外は用がない限りずっと離れに二人だ。
休みの日なんかは和臣の弟の篤臣くんが遊びに来る事もあるけど、部屋の掃除とかは二人が学校行ってる間とかだろうし、ずっと二人きり。
翔太が来る前はここに和臣は一人だったんだろうか?
まだ7歳だったはず。
そういえば聞いた事なかったな、と思いながら風呂場に足を入れた。
小さいといっても母屋に比べたら、だ。二人でも余裕で入られる位の湯船だ。それも檜作りの。
贅沢すぎる。
母親が早くに亡くなってお父さんと二人。
お父さんは和臣のお父さんのお抱え運転手でいつも外に出てる。
和臣のお父さんが出かけない時と海外に行った時などは休みだけどそれ以外はほとんどいない。
それでも和臣がいたから寂しいなんて翔太は思った事はなかった。
テーマ : BL小説
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