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会長様は俺様閣下 5

5   翔太(SHOUTA)


 風呂に入ってすぐだった。
 にわかに何かが気になった。
 あ、来る…。
 わたわたと翔太は浴槽を上がって引き戸を開けた。
 身体はびしょびしょでこれ以上は出られない。
 「和臣ーっ!和臣ーっ!」
 怖い…。なんでか知らないけど恐怖は突然やってくる。
 ばたばたと廊下を和臣が走ってきた。
 「翔太」
 「和臣っ」
 怖い。
 ぶるぶると震える身体を和臣が濡れるのも構わずに抱きしめてくれる。
 「入ったばかりだろう…?身体が冷える。ちょっと待て一緒に俺も入ってしまうから」
 「やだ…」
 身体を離そうとする和臣に縋った。
 「ちょっとだけだ。服脱ぐだけだから」
 我慢して和臣から離れた。でも視線はずっと和臣から離さない。

 翔太の恐怖を覚える場所はだいたい決まっている。
 トイレと風呂場と夜寝る時だ。
 こうなったら夜が明けるまで和臣から離れられなくなる。
 それでもトイレの中だけは少しの間だけだからどうにか我慢する。そのあとはもう離れられないけど。
 そんなこんながもう小さい頃からずっとなので、風呂に一緒に入るのも毎度のようなものだ。
 「しばらくなかったのにな」
 翔太は和臣の手を掴んで離さない。
 とにかくどこかに触ってないと恐くて仕方ない。
 一番安心するのは背中から抱っこしてもらえるのがいいんだけど…。
 和臣よりも身体は小さいけどもう高校生なのにこれってどうなんだろうと不安はいつもある。
 「翔太、おいで」
 湯船に入って和臣のOKが出ると和臣に張り付いた。
 これでやっと震えてた身体が治まってくる。
 なんで高校生にもなったのに男に抱きついてなきゃないのか。いや、翔太は別にそれでもいいけど。
 「……俺、ずっとこのまま…なのかな……」
 和臣の手が翔太のお腹にまわっている。
 いつからこんなに体格が変わってしまったんだろう?
 和臣の腕の中に翔太はすっぽりと入ってしまう。
 「何?翔太は嫌なの?別に俺は構わないけど?」
 「はぁ?何言ってんの!?ヤダに決まってんじゃん!!こんなんで俺恐くて和臣から離れられないし」
 ぴしっと空気が冷えたように感じたのは間違いだろうか?
 「……翔太は離れる気なんだ?」
 「そうじゃねぇよ!そうじゃねぇけど…だってありえねぇだろ、こんなの…それにまだ、とりあえずまだ、…いいけど…これ大人になってもだったらどうすんの、俺…」
 20過ぎても30過ぎてもこんなんだったらヤダ。
 「いいだろう、別に」
 「はぁ!?和臣わけわかんね!いいわけないだろ…」
 それにきっと和臣は一条の御曹司できっと結婚だってしなきゃないんだ。
 そしたら和臣はその女のものになってしまう。
 それでお風呂でこんなんなってたらどうするよ?
 問題ありすぎだろ!
 「いい、と俺が言ってるんだ。翔太はそのままでいい」
 「いいわけねぇって!」
 いつもはそんな事和臣は言わないのに。
 翔太が恐くて不安な時はずっと優しくしてくれるのに、なんでそんな事言うんだよ。
 「うぅ~…」
 ぼろぼろと涙が零れた。
 怖いのに、ずっと続くのヤなのに。
 和臣がいるならいいけど、そうじゃないのに。
 「翔太…ほら」
 和臣が向かい合わせに抱きしめ直してくれて背中をさすって宥めてくれる。
 和臣の首にぎゅっと抱きついてふるふると翔太は震えてた。
 「翔太、とりあえず落ち着かないと…」
 だって和臣がそんな治らなくていいなんて言うから…。
 「いいんだ…。いつでもいてやるから」
 嘘だ。今はいいけど大人になってまでは絶対無理だ。
 「翔太」
 和臣の声に顔を上げると目の前に秀麗な顔があった。
 かっけぇよな、と思って見惚れてたら顔が近づいてきた。
 ん?
 「か、か、和臣っ!?」
 「うん?」
 うん?じゃなくて!
 「い、い、今っ!」
 「うん、キスしたけど?」
 したけど、って…!したけど、って……。
 翔太は頭がくらくらしてきた。
 なんでキスすんの!?
 「おい?翔太!?」
 くたりと身体から力が抜けてしまう。
 「のぼせたか?」
 冷静な和臣の声。そして抱かれたままお湯からざっと上がる音。
 「…ほんと仕方ないね。お前だけなんだけど?俺にこんな事させるの」
 確かに!
 和臣は常に傅かれるほうであって奉仕するほうじゃない。
 それなのに和臣の手は翔太の身体をタオルで拭いてくれ、て着替えをしてくれて、布団まで運んでくれた。
 そこで翔太は意識を完全に手放した。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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